ズバッとお仕置き!スペクトロライト(8)
ラウールさん家最高記録のご馳走をペロリと平らげて。いよいよ始まろうとしているメインイベントを前に、イノセントは受像機に張り付いては今か今かと、デビルハンターの登場を心待ちにしていた。隣でジェームズを撫でながら、サムもモノクロの世界を夢中で見つめているが……。合間に挟まれたニュース番組の登場人物に見覚えがあるものだから、つい声を上げてしまう。
「あれ……? この人達は確か……」
「うむ? サムもこいつらを知っているのか?」
「う、うん……ちょっと、出かけた時に見かけた気がする……」
サムが母親に会いに行ったとは言わずとも、寄り道したローサン街で彼らが景気良く金貨の雨を降らせていたと白状すれば。ジェームズが困ったようにタンカラーをクイと顰めつつ、彼らの罪状について説明し始める。
【……コイツらはアラテのギンコウゴウトウでな。しかも、ゴウトウサツジンというタダシがツく、ゴクアクニンだ】
「何の因果か、私達はオルヌカンで会った事があるんだよな……。だけど、あの時はこんなに凶悪な感じじゃなかったと思うが」
【そうだな。しかも、オトコのホウはウデがギシュになっているみたいだ。……あのアト、ナニがあったのかはシらんが。このウデのカンじはタブン……】
「ヴィクトワール様のと同じものですわね。それはそうと……はい、プリンセスにサム君。アニメ鑑賞のお供に、チョコレートとカフェオレはいかが?」
「あ、ありがとうございます……」
「クフフフフ……今夜のおやつはチョコレートか。遠慮なく、いただくぞ」
背後から話題に混ざりつつ、サナが子供達におやつを進呈し始めるものだから、チョコレートはお預けのジェームズはちょっぴり面白くない。そうして、ジトっと恨めしげにお世話係を見つめれば。彼女も心得ましたとバタークッキーを差し出してくるのだから、その抜かりなさにフスンと鼻を鳴らしつつ……素直に尻尾を振るジェームズに、サナもヴァンも嬉しそうだ。
「……それにしても、あの義手ですけど。少し嫌な感じがしますわね」
「うん、そうだね。なんとなくだけど、あれは一種の改良版じゃないかな……」
【フガフッ……カイリョウバン?】
しかし、子供達の様子を見守っていた保護者とお世話係は、画面の中から懸念事項もしっかりと拾っている様子。モノクロームな景色の中でさえも、殊更主張するように黒光りしている彼の義手を見つめては2人揃って渋い顔をして見せる。
「ヴィクトワール様の義手は、とある研究機関から齎されたものだそうです。提供元の名前こそ、私も存じませんが……彼女の義手は特殊な金属と鉱物の合金でできており、人体の神経ともしっかりと連結しては、滑らかな動きと強度を実現した画期的な器具だと聞き及んでおります。ですけど、ヴィクトワール様の義手はあくまで、義手。要するに、腕の役目を果たす以上の機能は搭載されていません。ですけど……」
「うん。彼のは間違いなく、仕込まれているね。彼の場合、義手と一体化している以上に、逆に取り込まれている可能性も考えた方がいいかも」
きっと、研究風景の近くにいたせいもあるのだろう。ヴァンやサナにはそれらしい心当たりがあるようで、不穏な推測を呟く。
【トりコまれている……? だとすると、まさか……?】
「えぇ。そのまさか、だと思いますわ。あの義手はおそらく、アディショナルに近しい素材が用いられていると思います。しかし、私達に用意されているアディショナルは、カケラの力を制御すると同時に、装備者の自我を守るためのものであって、決して核石の融合を早めるものではありません。ですけど、様子を見る限り……彼は義手の方が成長していると見て、間違いないでしょうか」
「首筋の血管が黒く見えている時点で、結構な具合だろうね……これは。早めに切り離してやらないと、かなりマズいかも。……どうする、サナちゃん」
先程挨拶を済ませたばかりだというのに、ヴァンがさり気なくサナを「ちゃん付け」で呼びつつ、判断を仰ぐものの。意外と、サナもその呼ばれ方には満更でもないらしい。さして気に留めることもなく、アッサリと出陣の意向を示してくるのだから、ジェームズとしては非常に厄介だ。
「……実は先程、ラウール様からもご連絡がございまして。こちらに関しては、首を突っ込むなとも言われていましたが……状況が状況です。彼の腕の異変に気づいてしまった以上、このまま傍観するのは薄情というもの。直ちにヴィクトワール様にご連絡して、出動命令を取り付けて参ります」
【サナ。もちろん、それはそれでいいのだが……】
「あら? ジェームズ様。何かご心配ごとでも? あなた様も私がどんな存在かは、よくご存知でしょうに」
【いや、モンダイはサナじゃなくてな……】
ジェームズが困ったようにスンスンと鼻を鳴らしながら、目線を横にずらすが……彼の視線の先には、ブルーの瞳を爛々と輝かせてサナを見つめるイノセントの姿がある。その様子に……あぁ、なるほどと、ジェームズの言わんとしている事を理解するヴァンとサナ。この表情は要するに……。
「ふふ。でしたら、プリンセスの参加に関してもヴィクトワール様にお伺いして参りますわ」
「ほ、本当か⁉︎」
「えぇ。ただ、騎士団長がダメと言ったらお留守番ですからね。それに……ほらほら、ハール君の出番みたいですよ? まずはそちらを楽しんだら、いかがです?」
「うむ! だったら、クフフフフ……! 今宵のハール君の活躍をしっかりと見届けて、イメージトレーニングでもしておこうかな?」
「あ、あのね、イノセント。サナさんはまだ、参加させてくれるとは言っていない気が……」
【タブン、おルスバンのカノウセイのホウがタカいだろうな】
賑やかな行進曲を響かせながら出陣してくるハール君に、イノセントがテレビっ子に逆戻りしたのを見届けて。サナはまずは了承を取らねばと、いそいそと電話機のある1階へと降りていく。一方で、イノセント参加のお返事は「否」だろうと予想しつつ……きっとそれだけでは済まないだろうと、ジェームズは尚も不安を募らせていた。
【(……やれやれ。サナがデかけたアトは、イノセントをミハらないといけなさそうだ。……コンヤはナガいヨルになるな……)】




