ズバッとお仕置き!スペクトロライト(6)
午前中は愛する奥様と思いっきり観光を楽しみ、ホテルでもあるヒースフォート城に一旦は帰ってきたものの。夕食もどこかに出かけましょうと、ラウールとキャロルは2人きりで文字通り、夫婦水入らずで新婚旅行を楽しんでいた。
しかし、ラウールのご機嫌が最後まで最高の状態で保証されないのも、常なるかな。奥様のお召し替えを待つ間のカフェで、夕刊に気になる記事を見つけては……旦那様は折角の新婚旅行気分にも、暗雲を自前で発生させていた。
(これは一体、何の巡り合わせでしょうか……?)
彼の懸念事項は大きく分けて、3つ。
まず1つ目。
一面記事で取り上げられている、ロンバルディア中央銀行強盗の犯人について。今回の被害は企業向けの金庫だったので、ラウールのような個人利用の顧客への被害はない。しかし、この場合の問題は……犯人2人組の人相と、こうなった原因について有り余る心当たりがある点だ。ベスとバロウ。不本意にも顔見知りの彼らが、こんな事をしでかしているきっかけは間違いなく……。
(まさか、あの時に何気なく銀行のキーワードを出したのが、いけなかったのでしょうか……?)
彼らのヒトとナリについては、ラウールもそれなりに把握しているつもりだった。
野望だけが一丁前の、間抜けなコソ泥。泥棒の大先輩としても、「綿密な計画が必要な詐欺は向いていない」と忠告したつもりではいたが。どうやら、彼らは地道に働くよりも豪快に一山当てる方向性にハンドルを切った模様。しかも新聞によれば、強盗だけでは飽き足らず、大胆に殺人にまで手を染めているとある。これでは……流石のラウールが罪悪感を抱くのも、無理はない。
更に、懸念事項の2つ目。
記事の中でさえ困った表情をしているモーリスの釈明内容からするに、彼らの逃げ足を担っているのが、とある元・貴族家の押収品だということ。そして、その貴族が元・ロツァネル領主のグリクァルツ家だというのだから……これは何の因縁なのだと、ラウールは自身の運命さえも呪いたくなる。
(グリクァルツ家が所持していたスペクトル鉱自動車、ですか……。……こんな奴らに盗まれる警察も警察ですが……)
大元を辿れば、やっぱり自分が原因なのが更に居た堪れない。盗難現場自体はロツァネルらしいのだが、何かと民報の槍玉に挙がり易い警察組織の失態という事もあるのだろう。記事の暴れっぷりからしても、相当に兄が執拗な追及の坩堝に放り込まれたのだと、気づいてしまえば。ご愁傷様と憐れむだけでは到底、足りない。
そして……最後に最大にして、最悪の懸念事項だが。その事こそが非常に厄介過ぎると、ラウールは眉間のシワをギュッと刻み込んでしまう。しかし、この後は楽しい奥様とのお食事が待っているのだから、雑多な痕跡を揉んでは少しでも憂慮を浅くしようと、悪あがきもしてみる。しかし……まずまず効果もなければ、シワも悩みも深くなる一方だ。
(選りに選って、俺達の留守中に……お誂え向きな事件を起こしてくれなくてもいいのでは……?)
悩み多き父親もどきの眉間に深いシワを再構築しているのは、他でもない。獲物に飢えたデビルハンターが暴走するのが目に見えているという、保護者目線による憂慮である。自分の近くに「凶悪な強盗殺人犯」が潜伏しているとなれば。よし来たとばかりに、娘もどきが意気揚々と出陣しようとするのも、想像に難くない。
しかも、こんな事を奥様の耳に入れたら、すぐに帰ると言われかねないではないか。だとすれば、ここはとにかく……。
「お待たせしました……って、あら? あなた……もしかして、ご機嫌斜めです? お待たせしすぎちゃいました?」
「あぁ、いや。……大丈夫。君が心配するような事は、何もないから」
「そう? だと、いいのですけど……」
知らぬ存ぜぬを通すに限る。
そうして、昼間に買い求めた爽やかなワンピースに着替えたキャロルを迎えつつ。今はこちらを楽しまねば損だと、懸念事項ごと眉間のシワも一緒に引っ込めて。……こっそり、後でお世話役には電話しておこうと画策するラウールだった。




