ズバッとお仕置き!スペクトロライト(1)
「はぁぁぁぁ〜……退屈だ……」
「あら、イノセント様は意外と活発でいらっしゃるのですね? でしたら……お出かけついでに、お夕飯のお買い物に行きませんか?」
「もちろん、お出かけはしたいのだが……サナ。私がしたいのは、お出かけじゃなくて……」
デビルハンターとして、華々しく活躍したいのだ。
可愛らしいワンピースのスカートをキュッと握りしめながら、店内の掃除に勤しむ世話係……サナに色んな意味で無謀なご要望を吐き出すボケ竜神。いつかに白亜の王城で対峙したことも都合よく忘れては、サナがそちら方面のハンターであることも好都合と、ご活躍のステージをご所望してくるのだからタチが悪い。
【……イノセント。ハールはアイテもいないのに、ランボウしたりしないぞ】
「だけど、お仕置き用の衣装もあるのだぞ? それなのに……私は未だに、変身してズバッとお仕置きさせてもらえないのだ……」
彼女がここまで「ズバッとお仕置き」に固執するのは、偏にとあるトーキーアニメにドップリとのめり込んでいるからに他ならない。「ズバッとお仕置き! デビルハンター・ハール君」。毎週水曜日、午後7時から放映されるこのトーキーアニメを欠かさず視聴しては、イノセントは受像機の前でひと時の高揚感を享受していた。その姿だけ見れば、子供が年相応にはしゃいでいる微笑ましい光景に見えるだろうが……その実、イノセントは超高齢の地球外生命体。見た目は子供でも、中身は1000年単位でこの世界に居着いてきた、天空の来訪者の1人である。そんな恐れ多い竜神様が、人間の子供向けトーキーアニメに首っ丈なのは……子供っぽい以前に、落ち着きがないにも程がある。
「……仕方ない。今日は買い物に行くことで、気分を紛らわせることにする」
「えぇ、そうしましょう? ところで、イノセント様。お夕飯、何がよろしいですか?」
「えっ? 何がいいって……食べたい物を作ってもらえるのか?」
「あら? 普段は何が食べたいとか、リクエストはしないんですの?」
【……そうかもシれないな。キャロル、いえばツクってくれるかもシれないが、ラウールがそもそもショクにコダワりがないせいか、あまりコったリョウリはデてこない。ステーク・アッシェがイマのところ、サイコウキロクだ】
そのステーク・アッシェも、相当なご馳走の部類に入る料理ではあるだろう。だが、残念な事にラウールさん家でよく出てくるメニューではない。普段はソーセージか厚切りベーコンを焼いたものに、マッシュポテトが添えられるくらいの質素な食事しか出てこない上に、そもそも、ジェームズの言うご馳走をプリンセスがお召し上がりになったこともなかった。
「まぁ、そうだったのですね。でしたら、今夜のメニューはその最高記録にしましょうか?」
「うむ! 是非に、それで頼む!」
【あぁ、サナ。チナみに、キャロルリュウのステーク・アッシェにはチーズがノってる。だから……】
「かしこまりました。ジェームズ様のオーダーはステーク・アッシェのチーズ乗せですね? お任せください。腕によりをかけて、作って差し上げますわ」
ハンターとしての腕前も一流なら、世話係としての所作も超一流。その上、料理に関してはヴィクトワール直伝ということもあり、サナのレパートリーは非常に幅広い。料理上手で頼もしい世話係の存在に、こっちに残って良かったとジェームズもイノセントも現金な調子で歓声をあげるが。しかし、ジェームズもサナも。何かとお仕置きに拘る竜神様が、とんでもない事件に首を突っ込むことになろうとは……予想だにできないことであった。




