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密林に咲くヒヤシンス石(25)

【オレは、ね。ホントウはエセカミサマじゃなくて、ちゃんとした()()()()になりたかったんだ。だけど、サイショからニンゲンをエサにするようにデキアがっていた。そのせいで、イマだにオレはニンゲンになれない】


 人間になりたい。その願いを抱えて洞窟の外に飛び出したはいいものの、ライヤはどこまでも人喰いの子だった。いくら渇望しようとも、いくら努力しようとも。定期的に人間の肝臓ごと()()の胆汁を補充して、冬眠しなければならない()()は400年経った今も変わらない。


「……だから、あなたはこんな所で研究を引き継いでいたのですか? 人間になるために、ご親戚を使って必要な期間と材料を稼いでいたと?」

【そう、だね。……そうなるのかな、このバアイ。レナクにハンショクをマカせてみたは、いいけど……ケッカはヒドくなるイッポウ。しかも、ナニをカンチガいしたのか、ジブンこそがカンセイしようとオレをダしヌくようになった。コンキのコドモタチはオレのためじゃなくて、レナクのためにカツドウしていて……】


 「もし良ければ、お家に案内してもらえない?」って、ちゃんと聞いたのに。姪っ子はライヤに「パパはもっと強くなるために、肝臓が必要」だとアッサリと答えた。その事から、子供達には問いかけられた質問の意味を理解する知能ははないものの、「パパ=レナク」という本能だけはあるのだとハッキリと認識させられた。だから……これ以上は()()()にできないと、ライヤはレナクを使うことを諦めたのだ。


【シカタないか。オレはあくまで、ヒツヨウな()()()()()()()()()をハキダすだけだったし。レナクもハハオヤでいるよりも、チチオヤでいるコトをノゾんでいたみたいだし。ナニせ……メスのままじゃ、ジュミョウをカクホできないからね】


 鉱物を喰らって寿命を伸ばせるのは、男性のカケラだけ。来訪者の場合はその限りでもないだろうが、どこまでも()()()()()()()止まりのライヤやレナクにとっては「女性であること」は互いを牽制する状況では不利な要素にしかならなかった。

 異母兄弟でもあるライヤとレナクは、つがいで繁殖するために生み出されたイミテーションであり、彼らを掛け合わせることで研究者達は来訪者の量産を目論んでいた。それもこれも……全ては、永遠を得るため。限りある資源だけでは到底、クライアント(出資者)全員に永遠を齎らすことはできない。それに、自分達だってできる事なら、永遠が欲しい。だからこそ……研究者達は永遠を齎してくれるらしい()()を量産すればいいという考えに至ったのだ。

 それはあまりに短絡的過ぎて、もはや笑い飛ばすしかない()()()シャンバラ(幸福を齎らす者)絵空事(ユートピア)。ハーリティを諌めた柔和な神様も、彼らの度を超えた愚かさは是正してくれなかったらしい。ハーリティの遺伝子を受け継いだ子供達は研究者達の予想を遥かに超えて、凶暴かつ欲張りで。生み出された者の()()に遭い、愚かさを修正できなかった研究者達の最終終着点はユートピアどころか、カエルの腹の中だった。


【こんなザマなら、ハジめからウまれなければヨかったんだ。だって……ウまれちまったら、イきていたいってオモうだろ? だけど、ちゃんとイきていこうとオモっても、オレはサイショからバケモノだった。どんなにタべようと、どんなにネムろうと。チュウトハンパなイミテーションにしかなれない……!】


 だから、ここで旦那を食って完成品になるんだ。そして……今度こそ、幸せになるんだ。

 痛切なまでの希望の呟きと同時に、更に悲しい輝きを宿す金色の瞳。彼の瞳の色から、核石はイエロージルコンなのだと悟ると同時に……ラウールはふと、皮肉めいたキーワードを思い出していた。


「……ところで、キャロル。イエロージルコンの石言葉はご存知ですか?」

「イエロージルコンの石言葉、ですか? えぇと、確か産みの苦しみだったかと……。あぁ、そうですね。これは確かに……苦しみでしかないですよね……」

【ウみのクルしみ、か。やれやれ。ここまでピッタリだと、アワレむのさえもブジョクになるだろうな】

「えぇ、本当に。皮肉なものですね。とにかく……その苦しみはここで叩き潰してやらねばなりません」


 望みもしないのに生み出されて、望みもしないのに生かされて。

 目の前で更に変化を遂げ始めたライヤの慟哭が、いよいよ苦渋に満ちた歔欷にさえ聞こえてくる。きっと懺悔の告白の間に、取り込んだレナクが馴染み切ったのだろう。ボコボコと肌を粟立たせ、突起ごと張り裂けんまでに膨らんだその姿は……どこか、望まぬ未来さえも抱えているように見える。


【フシュルルルル……タべる。カンゾウ、タベル……!】

「この様子だと……肝臓を食べる間もなく、理性も消化してしまったようですね。さて……そろそろ、幕引きといきましょうか。キャロル、クリムゾンの力を借りてもいいですか?」

「もちろんです。この身を、存分にお使いください」


 拘束銃で締め上げることができないのなら、鞭で締め上げるまで。手当たり次第に餌を飲み込んで、磅礴の名を恣にしたイミテーションのお肌に、お熱い一撃でプスりと穴を開けてやりましょう。引導を渡すには随分と頼もし過ぎる相棒を手に、燃え盛るキャンプファイヤーよろしく。いよいよ、望まれぬ化け物に贖罪の業火を浴びせるラウールだった。

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