密林に咲くヒヤシンス石(24)
彼の話ではサティスファイはある日、研究者もろとも忽然と姿を消した事になっている。しかし、目の前の偉容を見つめれば、その話さえも嘘だったのだとラウールは嘆息せずにはいられない。おそらく、ライヤは来訪者の代用品として作られただけでは飽き足らず、来訪者になるべくその全てを取り込んだのだろう。
「手間が省けて助かりましたね。あなたさえ仕留めれば、根絶やしにできるという事でしょうから」
【……やっぱり、オレはダンナのホゴタイショウにはならないみたいだね。だけど……どうしようかな。ダンナはニンゲンガワのホウでもユウメイみたいだし。サスガにコンカイばかりは、ハクシャクサマもフォローできないか……】
「伯爵様? ……あぁ、ドレクァルツ様のことですか?」
そうさ……と、ペロペロと自身の体液を舐めながら、ライヤが答える事には。
ドレクァルツ家と彼の間には1つの盟約が結ばれており、その餌を理由にライヤも大人しく彼らのお庭番に従事していた……という事になるらしい。そもそも、彼がフォンブルトンにも甲斐甲斐しく接していたのは、最初に彼を拾い上げた「ご当主様」との約束に従った結果なのだとか。そして……ドレクァルツ家にしてみても、ライヤは利用価値のある有望な人材でもあった。
【イマでこそ、オルセコはダイキボなヒショチとしてもニンキがあるけど。イマもムカシも、ハクシャクサマがビンボウなのはカわらない】
「その響きから、ドレクァルツ家は水晶三家の1つでしょうし……確か公認貴族でもあるはずなので、そこまで貧乏だとは思えないのですけど。実際に、あのフォンブルトン様は不労所得でヌクヌクしてそうに見えましたけどね?」
【いいや? ハクシャクサマはビンボウだよ? オルセコは、オフシーズンとオンシーズンのラクサがハゲしいからね。テイジュウしているリョウミンもスクなければ、スいアがってくるフロウショトクもタカがシれている。……リョウチはあっても、リョウミンがいなければ、シュウニュウゲンはカギられる。だから……ちょっとしたハンザイがあったトキは、おトナリからメイワクリョウをモラうようにしたんだよ】
お隣のルーシャムには素敵な事に、ちょうど良い人喰い伝説が存在していた上に、当時の被疑者を2名も取り逃がしているという失態が残っている。シャゼール街道をいくら封鎖しても、国内の悪い奴らが強盗を働いているとあっては、何かと気前のいいルーシャムは監督不行き届きを財力で揉み消しては、罪過も誤魔化してきた。これ以上、国家の汚点を拡散させないように……と。
そんなルーシャムの過剰反応をまんまと利用して、ドレクァルツ家は何かあると騒ぎ立ててはルーシャムのせいにしつつ……観光産業と化け物とを、姑息な手段で守ってきたのだった。
「……随分と汚いですね、あなたもドレクァルツも。doréの金色が示すのは……その体液と同様に、腐敗臭混じりの癒着だと考えて良さそうですか? それでは、磅礴の名も泣きますね」
【うわ、シンラツだねぇ、ダンナ。ここはユチャクじゃなくて、キョウゾンってイってくれよ】
ドレクァルツに必要だったのは騒ぎを起こす「正体不明の人攫い」、そしてライヤに必要だったのはオンシーズンに活躍の場を用意してくれる「パトロン」。きっと、ライヤを教育したご当主様の功績のおかげなのだろう。ライヤがドレクァルツに手を出さないのは、人間らしさを獲得させてくれた彼らには一応の恩を感じているだけに過ぎない。そして……彼の忠義こそが人間らしさの証明なのだと嘯いては、ライヤは尚も悲しそうに笑う。
【キョウゾンがキいてアキれるな。ナニもカンガえずに、ホウチしているルーシャムもルーシャムだが。それイゼンに、ドレクァルツはジブンでナンとかすることも、オボえたホウがいい。……そんなんじゃ、オソかれハヤかれ、メツボウするぞ】
【そうだね、ワンちゃん。それにカンしては、オレもドウカン。……ドリョクはダイジだよね】
化け物の姿のままでも、ライヤのお喋り好きな性質は変わらないらしい。ジェームズの詰るような指摘に、少しばかり気落ちする様子を見せては……まだまだお別れは惜しいと、頼みもしないのに身の上を語り続ける。それはまるで、今までの懺悔だとでも言いたげな、生み出された側の苦悩を吐露する告白でもあった。




