銀河のラピスラズリ(7)
結局、ルト以外の僧は警護について話し合いをしようにも、取り付く島もなく。仕方なしにスゴスゴと家に逃げ帰るものの……そんな我が家でモーリスを出迎えてくれたのは、ソーニャのみだった。聞けば、ラウールは昼過ぎから調べ物に出かけたまま、帰っていないという。彼に相談したい事があったモーリスにしてみれば、肩透かしを食らった気がして思いの外、寂しい。
「そうか……ところで、ソーニャは行き先については聞いてる?」
「えぇ、もちろんですよ。ラウール様は今、お知り合いの調剤師さんの所に出かけています」
「……調剤師……?」
弟にそんな知り合いがいるなんて、聞いたこともなかったが。弟はアレで、処世術には長けている部分がある。ラウールは愛想の良さは最低レベルだが、付き合うべき相手とのコネクションを維持することは、きちんとしているらしい。相手を選ぶワガママを通しつつ……価値のあるものを選別する審美眼が向けられる先は決して、お宝だけではない。
「……そのお顔ですと、ラウール様に何かお話でも?」
「え? あぁ……ちょっと相談したいことがあったものだから。例のグリードのターゲットについて、確認をしたくてね」
「そうでしたの。次の狙いは確か、“銀河のラピスラズリ”……でしたっけ?」
「そう、それそれ。とは言え……どうも、先方のお話をお伺いした限りでは、普通の宝石ではなさそうなんだ。一体、どんな宝石なんだろうな……」
独り言とも言えない力ない呟きを吐きながら、虚空を見上げるモーリスにいそいそとコーヒーを差し出す、ソーニャ。そんな差し出されたコーヒーをモーリスが啜るのを確認して、今度は誰に向けるでもなく答える。
「……少なくとも、その可能性がある宝石であることは、間違い無いのでしょう。私は既に諦めていますが……男性のカケラには夢を見る権利がありますから。ラウール様はきっと望みを叶えるために、夢を追い続けているのでしょう。その夢は量産品の半貴石には到底、得られないものでしょうが……それでも、少し憧れてしまいますわ」
「……」
自身を量産品等と自嘲しながら、寂しそうな笑顔を見せるソーニャ。決して、到底理解しえない彼女達の苦悩に寄り添えない自分を情けないと思いつつ……何かを誤魔化す様に、オレンジ色の空を窓越しに見上げる。まだ月の出には、いささか早い。そんな日が落ちるのが殊の外遅い、盛夏の夕暮れは……どこか寂れた色を帯びていた。




