密林に咲くヒヤシンス石(2)
「釣竿だけは確保できて、良かったですね」
「そうだね。しかし……ラウール君と僕は、からっきしだなぁ……」
「……みたいですね」
農場主でもあるノールのご厚意で、釣竿は確保できたものの。男同士で腰を据えていると、何故か大人2人の竿には小魚1匹、引っかからない。そうして2人揃って、恨めしげに横に視線を逸らせば……またも、やや大ぶりな川魚を鮮やかに釣り上げる少年の姿が目に入る。
「おぉ! サム、凄いぞ! また、釣れたな。ところで、これ……何の魚だろうか?」
「う、うん……僕もこんなに釣れるなんて思わなかったから、ちょっとビックリだよ……」
「……どれどれ。ほぅ! こいつはニジマスだな。そのまま焼いても美味いが、バターでソテーにした後、仕上げにコアントローでフランベにすると格別だ」
「そうなのか?」
「うむ! オレンジの香りが仄かに残って、洒落た味になるのだ!」
女の子達(中身は凶暴だが)にちやほやされて、サムがちょっぴり照れているのが、男2人としては非常に面白くない。しかも、取り巻きのイノセントとロゼッタの竿にも魚が引っかかているのを認めると、ヒソヒソと2名で打ち止めを画策する。
「……そろそろ、帰りましょうか?」
「そうだね……って、おや? ……あれ、ジェームズだよな?」
「そうですね。紛れもなく、うちの看板犬ですね。しかし……」
そこには、すっからかんの彼らへ追い討ちをかけるような現実が、また1つ。嬉しそうに川遊びに励んでいたと思っていたドーベルマンの口には、これまた非常に珍しい大物が咥えられているではないか。ジェームズの身体能力の高さが抜群なのは、飼い主も把握していたが……。まさか、その身1つで影の騎士を捕まえてくるとは、予想を遥かに越えている。
「オンブルシュバリエ、ですよね。あれ……」
「あ、あぁ……。確か、もの凄く珍しい高級魚だった気が……」
【ハゥゥ〜ン(トったど〜)!】
しかも、渓流のオンブルシュバリエは40cmあればそこそこの大物だと言うのに、ジェームズが咥えているそれは、悠に60cmはありそうだ。……普通、ここまでの大物は湖に潜んでいたりするのだが。優秀なシークハウンドにかかれば、フィールドが川だろうが湖だろうが、関係ないらしい。
(これでは、キャロルにいい所をアピールできないではないですか……!)
たくさん釣って帰るので、待っていて下さいと……荷物整理と留守番をしてくれているキャロルに大口を叩いてみたものの。蓋を開ければ、子供3人に負けている情けない状況である。しかも……哀れ、犬にも完敗だなんて。
「ま、まぁ……夕食のメインとしては十分だろうし……。僕達は運が悪かった、ということで……」
「そうですね……。全体的に流れも早い川のようですし、暗くなったら危険かも知れませんね。……仕方ない。金星はあの子達に譲りましょう」
「そうそう。それが大人ってものさ。……でも、ラウール君。明日もチャレンジするよな?」
「えぇ、当たり前です。……明日、リベンジしますよ、ヴァン様。このままでは、悔しいったらありません」
【……(なんだ、フタリはバストか)】
Today was a bust……男2名はボウズなり。フガフガと咥えていた釣果を飼い主に委ねてみるものの、愛犬としては彼らの何かに火が付いた気がして、こちらはこちらで心配である。
【(イガイとメをクバらないといけないのは、こっちかもシれないな……)】
大人気なく作戦会議をし始める彼らの様子に、タンカラーを吊り上げるジェームズ。一方で、大漁の釣果に満足したのだろう。保護者達の撤収の合図にすんなりと子供達が従うのを見るに、やはり変に意地を張っているのはラウールとヴァンだけらしい。何も、子供相手に張り合わなくてもいいだろうに。この調子では、別の意味で面倒臭そうだと……言葉こそ、ないけれども。ジェームズは胸の内でも、キュッと眉根を顰めずにはいられないのだった。




