シンセティック・カプリッチョ(7)
夕食後の腹ごなしという訳ではないが。早速、お披露目された衣装を着込んで、イノセントはご機嫌もご機嫌である。一方で……無理矢理着せられた狐の着ぐるみ姿のジェームズが、プリンセスの巻き添えをしっかりと喰らっているが。獲物に飢えたデビルハンターはお着替えだけでは到底、満足できないらしい。ジェームズをとある名前で呼びながら、リビングで大騒ぎし始める。
「行けっ、ボンド! 今こそ、悪魔を駆逐するのだ〜!」
【ア、アォォン……】
一応、説明しておくと……ボンドというのは、ハール君の使い魔である黒い狐のキャラクターである。とは言え、所謂マスコット的な存在だと定義すれば、まずまず誤解もないだろう。元は悪魔という触れ込みではあるが、普段は子狐の姿で登場していることもあり、特に女の子に人気があるそうな。その妙に囲い込みに余念がないディテールに、大人の目論見が透けて見えるようで……ラウールは眉を顰めざるを得ない。
「って、コラ! いきなり、何をするのです!」
【ハゥゥン(すまん、ラウール)……】
「よくやった、ボンド! それで……ふふふふ……! 喰らえ、セイントアタ〜ック‼︎」
「フゴッ……⁉︎」
モッフモフな変装セットを着込んだジェームズに、デビルハンター気分も最高潮と攻撃命令を出すイノセント。そうして、悪魔と名指しされた店主の脇腹に自らもアタックを仕掛けるのだから、相当に凶悪である。
「クフフフフ……! 人の皮を被った悪魔め! 私がしかと、お祓いしてくれようぞ!」
「……ほぉ〜? 俺にそんな事を言って、いいのですか?」
「うぐ? な、なんだ、悪魔! 私は悪魔の脅しには屈しないぞ!」
「左様ですか? ……イノセントにお仕事をお願いするのは、止めましょうかね。敵と味方の見分けもつかないようなお子様が混ざっていては、危ないですし。……うん、うん、そうしましょ。人を悪魔呼ばわりする悪い子は、番犬とお留守番していてもらいますかね」
「は、はぅ! それは困る!」
でしたら、もう少し年相応の落ち着きを身につけて下さい……と、本来は超高齢で年上なお子様に粛々とお説教をするラウール。それでなくても、イノセントは小柄な割には力も強い。本人は可憐な姿だと言い張るが、中身の性能はグリードなんぞ足元にも遠く及ばず、特に本性側は現存する生物の中でも最凶クラスだと思われる。そんな馬鹿力で不意打ちのタックルを決められては、ラウールとしては気が休まる暇もない。
「ふふ、それにしても……本当によく似合っていますよ、イノセント。ですけど、折角の可愛い衣装なのですから、落ち着いた振る舞いをしたら如何ですか? ラウールさんに攻撃を仕掛けるのは、やめましょうね」
「う、うむ……そうだな……。それはともかく、似合っているか、これ⁉︎」
「えぇ、とっても。お淑やかに振る舞えば、お姫様だと言われても違和感がありません」
「そうか! だったら……うん! 私はデビルハンター・プリンセスを目指すぞ!」
「デビルハンターとプリンセスの要素が妙に噛み合わない気がするのは、俺だけですかね……」
【……ジェームズもオオムね、ドウカン。ツッコミどころ、オオすぎ】
イノセントを諌めると同時に、キャロルが運んできてくれたコーヒーを受け取りながら、やれやれと首を振るラウール。明日からはキャロルの通学もない事だし、イノセント込みでも少しは平穏に過ごせるだろうかと思うものの。ハール君が無事に最終回を迎えてくれない限りは、竜神様のデビルハンター狂想曲もまだまだ続きそうだと、尚も嘆息せずにいられないのだった。




