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シンセティック・カプリッチョ(6)

「ただいま〜」

「帰ったか、ラウール! で……お土産は⁉︎」

【……イノセント、おミヤゲのマエにキャロルをネギラう、サキ。タノしみなのはワかるが、オちツけ】


 キャロルを連れて、無事に帰ってみれば。予告されていたお土産を今か今かと待ち侘びていたイノセントが、ラウールに飛びかかる勢いで熱烈なお出迎えをして下さる。そのある意味で無邪気な姿に、やれやれと安堵の息を吐きつつも……まずはジェームズの言う通り、キャロルを労う方が先だとイノセントを嗜める。


「お土産は夕食の後にお披露目しますよ。とにかく、一息入れさせてください」

「う、うむ……それもそう、だな……」

「ふふ、イノセントはそんなにお土産が楽しみだったのですか?」

「そうなのだ! デビルハンター変身セットだって、聞いていたし! クフフフフ……いよいよ、私がズバッとお仕置きする時が来たようだな……!」

「確かに、それらしいお仕事をお願いする()()とは申しましたが。俺は一言も、デビルハンターの変身セットだとは言っていませんよ……?」


 因みに、渦中のハール君だが。トーキーアニメとしては中々に人気があるらしく、既に続編の制作も決まっているとか、何とか。ラウールにしてみれば展開も一辺倒だし、()()がないと思うものの。……イノセント程の年頃(精神年齢的な意味で)の子供達にしてみれば、勧善懲悪モノは()()がいいのかも知れない。未だにメクラディ(水曜日)は電気技師店にディスプレイされている受像機の前に子供達が集まるのだから、彼の人気ぶりはグリードが嫉妬してしまう程……ではないにしても。やや大袈裟に言えば、ブームの1つだと言っても差し支えないだろう。


「さて……と。とりあえず、夕食にしてしまいましょ。あぁ、キャロル。疲れているところ悪いんだけど……スープだけでもお願いできないかな」

「大丈夫ですよ。それにしても……ラウールさんがトレトゥール(惣菜)を買って帰ろうと、言い出すなんて。何か、あったのですか?」

「い、いや? 別に何もないよ。ただ、キャロルも疲れているだろうと思って……」

「ふ〜ん? そうですか?」


 相変わらず、不器用な男である。いつもの二枚舌の鮮やかな舌鋒はどこへやら。キャロルを前にすると途端に嘘をつくのが不得手になるのだから、ラウールはつくづく彼女には()()と見える。


【コンヤクシャの()()()()()()もタイヘンだな、ラウール?】

「ヴっ……何ですか、ジェームズ。俺は何も、キャロルのご機嫌を窺っているわけではないですよ?」

【そうか〜?】


 ジェームズが意地悪く呟くと同時に、何かを誤魔化すように器用に口笛を吹いて見せるが。ヘンテコな悪戯心を発揮している彼にこそ()()()()()を着せてやるのだと、ラウールはちょっとした復讐心を募らせるのだった。


***

(うん、融和炉の調子もバッチリって、ところか。それにしても……)


 どこまでも()()()からは逃げられそうにないな……と、ヴァンは首筋を摩りながら、眩い光を漏らす融和炉を見つめていた。スペクトル鉱を燃料にオレンジの炎を腹で渦巻かせているのは、「火炎溶融法」による人工宝石を作るための設備である。その腹を満たす(原料)(主に酸化アルミニウム)はじっくりと消化(加熱)されては、大切な1粒へと排泄(集約)されてゆく。

 「火炎溶融法」の手法は確かに、コーネ・コランダムの生成方法をある程度受け継いではいるものの。粉々に砕いた酸化アルミニウム(アルミナ)をじっくりと集約する手法でもあるため、コーネ・コランダムよりも遥かに()()()()()シンセティック・ストーンを生み出すことが可能だ。しかし、目の前で行われている一連の捕食と消化、そして集約のサイクルを見守っていると……嫌な事が思い出されて、厄介である。


(いずれにしても、この調子であれば……3日後にはお渡しできそうかな)


 パワフルなスペクトル鉱は、非常に器用な燃料でもあるらしい。長時間稼働が可能な持久力もさる事ながら、高温になりすぎてもよろしくない「火炎溶融法」の繊細な温度調節のオーダーにも応えてみせる。しかし、その器用さを目の当たりにすればするほど、ヴァンは左胸が疼くような錯覚に襲われては……大きく息を吐く。

 画期的な鉱石による技術の飛躍が、合成宝石の作成だけに適用されるのであれば、心配は要らないが。目の前の融和炉の()()()()を考えると、その限りでは決してないだろうと……ヴァンはとっくに気付いてもいた。


(とにかく、こっちができる間にマスク作りも済ませておこうかな。この光を見ていると、エイルを思い出してしまう……)


 耐熱性のテストに駆り出され、最期にはその(核石)を兄に投げ出した薄幸の妹。だが……その試験も、最終目標のための()()だったのではないかとさえ、思えてしまう。そんな事を考えながら、目の前で刻一刻と完成に近づいていくシンセティック・ルビーを見つめていると、別の意味で気が滅入ってしまいそうだ。そうして、疼くような感傷を振り払うように……ヴァンは店の地下に広がる()()()()()()を逃げ出した。

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