シンセティック・カプリッチョ(5)
「いいですね、ジェームズにイノセント。シンセティックのルビーに関してだけは、キャロルに内緒ですよ」
「うむ、分かった。……これもキャロルのため、なんだよな?」
【ミョウにコソクなキがするが……タシかに、ウデダメしにはチョウドイイかもシれない】
ヴァンが帰った後、商売も早々に切り上げて。飽きもせずに「クリムゾン」関連の番組を垂れ流しているテレビ受像機の前で、2人と1匹で顔を突き合わせるラウール達。受像機の映像を鼻で笑うのもそこそこに、ちょっとした悪ふざけで一致団結すると、ラウールが今回の計画について話し始める。
「メーニャン様には当然ながら、対象のルビーはシンセティック……要するに合成石だという事は伝えます。作業費をいただく以上、ここはしっかりとお伝えしなければなりません」
「……なぁ、ラウール。そう言えば、シンセティックというのは何なんだ? 合成石というからには……偽物なんだよな?」
「シンセティック・ストーンというのは、天然石と同じ成分で合成された人工宝石のことですよ。本物と同じ強度や性質をある程度は再現することができ、組成だけ見れば、天然石と変わらないのです」
「でも……それって、結局はメーニャンに堂々と偽物を売ることになるんじゃないのか?」
「違いますよ。確かに人工の宝石ではありますが、組成が同じである以上、鉱物としては偽物ではありません。ただ、天然物ではないというだけで、鑑別書を作成する事も可能なのですよ」
「そうなのか?」
「えぇ。ただし、シンセティックを天然石として販売するのはナシです。合成石を販売する場合は、シンセティックであることを記載した鑑別書を付けるのが、宝石商としてのお作法でもあるのです」
シンセティックであっても、人工ルビーはそこまでお安い宝石ではない。だから、この場合はクリムゾンが気に入りそうな宝石を用意するという部分では、シンセティックでも十分に撒き餌としてのオーダーはカバーできる。ルセデスの目的はあくまでクリムゾンを誘き寄せることであって、宝石自体が欲しいわけではない。
「……ですので、今回は偽物さん達に一泡吹かせるつもりで、シンセティックを利用します。試験の結果はまだですが、キャロルであればきっとパスしてくるでしょうし、皆さんの前で裏テストを実施するのも面白い。ですので……ククク。予告状には皆様もお誘い合わせ頂くよう、書いておきましょうか。我こそは本物だと主張する不届き者は、残らず叩き落として差し上げましょ」
【ラウール、ムこうガワがデてるぞ。タノしいのはナニよりだが、ユダンするとニンソウがワルくなるから、キをツけろ。……そんなんじゃ、マスクをしててもメーニャンにバレる】
「私も同感だな。ラウールの悪魔顔は真似したくても真似できないだろうから、一発でラウールだって分かるぞ。しかし、どうしたらそこまで不気味に笑えるんだ? 私には、そのことが何よりも不思議でならん」
「……それは俺も知りたいです……」
ラウールの笑顔については最早、奇怪な事象と片付けてしまった方がスムーズかもしれない。ラウールとて、自分の笑顔がこの世のものとは思えないレベルで不気味なのは把握している。一応はせめて「デビルスマイル」を「人間の笑顔」にしようと、鏡相手に練習もしているのだが……成果を実感できた試しはない。
「と、とにかく! キャロルのヴランヴェルトへの通学は今日が最後です。明日から彼女もいますから、今の話は内密にしてくださいよ」
「分かった、分かった。にしても……いいなぁ。私もデビルハンター・イノセント! ……とかって言われて、活躍してみたいぞ」
【……グリードとクリムゾン、ドロボウ。デビルハンター、チガう】
「でも、場合によってはフランシスと同じことをしているのだろう? ……いつも留守番じゃ、つまらないぞ」
常々「楽しいこと」を探しているイノセントにしてみれば、ラウール達の裏稼業は好奇心を刺激するお仕事であることに違いはない。ワガママ娘が不満げにプンスカと頬を膨らませて見せれば……仕方ありませんねと、ラウールがちょっとしたお土産について話し始める。
「あぁ、そうそう。実は白髭に頼んでいた装備が出来上がったようでしてね。ジェームズの変装セットとイノセントの装備を受け取る予定なのです。……まぁ、イノセントに泥棒をさせるわけにはいきませんが、デビルハンター側のお仕事はお願いすることがあるかもしれません」
「ほ、本当か⁉︎」
【……ジェームズはベツに、サンカしなくてイイ。ここでゴロゴロしてる】
「ジェームズは変なところはやる気がないな。デビルハンターの使い魔役をさせてやろうと思っていたのに……」
【それこそ、ますますおコトわりだ】
ラウールとしてはジェームズこそにお手伝いして欲しいのだが、まずは面倒な娘もどきを籠絡できれば、よしとしなければならないか。それでなくても、例の装備はイノセントが絶対に喜ぶ一着である以上、彼女の膨らんだほっぺも元通りになるに違いない。




