エメラルドの卵(24)
「……仕方なしに、こうして種明かしにお付き合いしに来ましたけど。そう。……もしかして、そちら様の自己紹介も洗いざらいお喋りしてくださると?」
「今はそんな事を言っている場合じゃないんだ。……悪いが、何も言わずにコルテス城まで一緒に来て欲しい」
キャロル達と合流し、あまり足を運びたくもないトワイライトさんのお店に再びお邪魔すれば。そこには銀の仮面姿のイザベルと思われる人物まで揃っている。……いくら閉店しているとは言え、この出立ちでは怪しまれそうなものだが。自身も普段は怪しい格好で店に出入りしているのだから、ラウールも人の事を言えたものではない。
「一応、申し上げておきますが。俺はオルヌカン様にモリフクロウの卵をお返しできれば、それ以上の事に首を突っ込むつもりはありません。そのご様子ですと、フランシスさんは相当宜しくない状況なのでしょうが……生憎と、エメラルド用の鎮静剤は持ち合わせていませんよ」
「ラウールさん! その言い方はあんまりだと思います。何か方法はないのですか?」
「ありませんね。……ご様子からするに、フランシスさんは熱暴走以上の状況に入られているのだと思われますし……そうなれば、それこそモリフクロウの卵を食べてしまうのが手っ取り早い。ですが、それをしようとしない時点で……ご本人は延命を拒んでいるのでしょう」
「その通りだよ。それでも、何か知っていれば助けて欲しいんだ。……一緒に来てくれれば、卵だけはきちんと返すよ。お前のいう通り、フランシス様は頑なにあれを口にしようとしない。そうなれば、私達にとっても必要ないものだから」
小柄で、女性と見まごうばかりに線の細いイザベルがそこまで懇願しては、さも悲しそうに肩を落とす。そんな彼の様子に、薄情なラウールを詰る視線は冷たさを増す一方。周囲に渦巻く空気の氷結加減に、白旗を挙げては……ラウールも仕方なしに、渋々と同行を了承する。
「ところで、ラウール君は馬は得意かい?」
「……気安くラウール君なんて、呼ばないでいただけませんかね、ヴァン様。馬術はそれなりに得意ですが……あぁ、なるほど。俺に馭者をさせるつもりですか?」
「おっと、失礼。そう言えば、君はロンバルディアの王子様でもあったね。まさか、そんな王子様に馭者をさせるつもりはありませんよ。しかし、この人数では馬車に乗ることができないものだから。ラウール王子と僕は馬に乗ってしまった方がいいかなと思って、聞いただけなのです。ふふ、なるほど、なるほど。流石にロンバルディアの王子様はそれなりの訓練もされていると見える」
「分かりました、分かりましたよ。この際、ラウール君で結構です。王子様だなんて、事実を伴わない呼ばれ方は非常に不愉快です」
話術につけても、接客につけても。それぞれ1枚も2枚も上手のトワイライトさん相手に、またもや降参と白旗を振っては、やれやれと首も振るラウール。いつの間にか自分に対する口調が親しげで、砕けた調子になっているのも非常に気に食わないが。しかして、ここで王子様と呼ばれた等と知れたら、どこかの誰かさん達を喜ばせそうで……民間人を気取るラウールには、ヴァンの友情を受け取る選択肢しかない。
そんな一悶着もあった後に目指すは、メベラスの中腹でひっそりと佇むコルテス城。かの城はフランシスの別荘であり、保護された彼らが幼少期を過ごした場所でもあるのだという。そして……かつてはオルヌカン城主の妻でありながら、とある冤罪を被った悲劇の令嬢・エリザベートが最期を迎えたとされている、打ち捨てられた新緑の古城でもあった。




