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銀河のラピスラズリ(3)

「天文学の学術書は確かこの辺だと思いますが……そう言えば、お嬢さんは何故、わざわざ図書館にお父さんの本を探しにきたのです。ご本人に頼めば、喜んで貸してくれるのでは?」


 3階の自然科学の学術書が並ぶ本棚を、なぞる様にお目当ての作者の名前を探しながら……ルビアに当然の質問をするラウール。そもそも身内の書いた本であれば、わざわざ膨大な書籍から探し出さずとも簡単に手に入るだろうに。しかし……何気なく投げてみた質問は、ルビアには少々都合の悪いものだったらしい。ちょっと拗ねるように口をすぼめながら、元気なく答える。


「お父様にも、お願いしたんだけど……私にはまだ難しい、って言われちゃったの……。それで、お星様の事を書いた絵本をくれたんだけど……絵本じゃなくて、どうしてもお父様の本を読みたいの。私にも、本に書いてあるお話が分かれば……大学にも一緒に連れて行ってもらえると思うし……」

「あぁ、そういう事ですか。君はその本を読みたいのではなく、お父さんと一緒に学校に行きたいんですね。そう言えば……ルビア嬢はおいくつですか? それこそ、そろそろ文字や計算を習うお年頃に見えますが……」

「6歳なの。でね……勉強はメルシャが教えてくれるの。だけど、できればお父様に色々教えて欲しいの。お休みの日は遊んでくれるけど……お父様が勉強を教えてくれることはないの……」


 きっと、この小さなレディは筋金入りの父親っ子なのだろう。父親という存在をきちんと感じたことがないラウールには、彼女の傷心の程は理解できなかったが。少なくとも、ルビアが父親に関しては恵まれているらしいことくらいは理解できる。そして、その()()()()()()が羨ましいと……心にもないはずの事が頭に浮かんでくるのを、なぜか必死に打ち消す。


「……さてさて。そんな事を話しているうちに……ほら、ありましたよ。ルビア嬢がお探しの本はこちらではありませんか?」

「……!」


 やり切れない痛みをひた隠す様に、ようやく探し出した重厚な雰囲気の分厚い本を取り出すと、ルビアに手渡すラウール。見た目に違わず、ズッシリとした重量感のある書物の表紙には……『星の一生』という、学術書にしてはなかなかにロマンチックなタイトルが刻まれていた。


「うん……! そうなの! この本なの! ほら、ここ……お母様の絵が載っているの!」

「ほぉ……。だとすると、君のお母さんは画家さんですか?」

「違うの。お母様のお絵かきは趣味なの。だけど……この蛇さんの星座の絵が気に入ったからって、お父様が表紙に使うことにしたんだって!」


 少々重たい本を両手で嬉しそうに抱えながら、うっとりと頬を染めるルビア。そうして嬉しそうなついでに、ちょっと胸を張り……星についての自論を自信タップリに解説し始める。


「お星様は私達とおんなじで、生きているんだって! それでね……最後はきれいに光って、死んじゃうの……。だけどね、死んじゃうときに新しい仲間を作るらしいの!」

「そうなんですね。そう。……星も生きているんですね」

「うん! でね、空のお星様の輝きはみんな違うけど……1番キラキラしている星が、1番偉いわけじゃないんだって!」

「……えぇと、それは一体、どういう意味でしょうか?」

「フフ、お兄ちゃんも知りたい?」

「えぇ、とっても興味がありますよ、先生」


 妙な事に巻き込まれたと思いつつも、先生に教えを乞うてみるラウールと……一方で一層目を輝かせながら、エヘンとちょっと背筋をのけ反らせ、更なる解説を加えるルビア先生。


「えっとね……見上げただけでは、そのお星様がどのくらい遠くから光っているのは、分からないでしょ? だから……本当はとっても大きくて偉いお星様かも知れないのに、私達からちっぽけに見えているだけで、他のきれいに光っているお星様のほうが偉いって勝手に決めていることがあるらしいの。……だからね、きれいで偉そうな人が本当に偉いかどうかは、見た目からは分からないんだって。お父様も言ってたの!」

「へぇ……君のお父さんは、なかなかに上手い事を言いますね。……俺もそう思いますよ。いくら着飾っていても、いくらお金持ちでも……偉いかどうかは、他の人の見方と立場によって異なりますしね」


 すんなりとラウールが同意を示した事で、今度は感激した様に満面の笑みを見せるルビア。そうして無事に探し出したお目当ての本を借りようと提案すると、きっと彼女なりに満足したのだろう。意を唱えることもなく、素直にチョコチョコとラウールの後を付いてくる。そうして無事お役目を完遂できたと、少しだけこそばゆい気分になりながら……今度『星の一生』も読んでみてもいいかも知れないと、ルビア先生の教えをキッチリ刷り込まれたラウールであった。

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