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エメラルドの卵(22)

 さて……どこから話しましょうか。

 トワイライトさんではなく、ヴァンと名乗った表向きは調香師の()()が困った表情を見せつつ、ラウールに問えば。ラウールはラウールで、警戒心を残したなりに()()()()()()()を差し出し、まずはこちらのご説明をお願いしますと、やや高圧的に詰め寄る。


「はは……よく分かりませんが、何やら嫌われてしまったようですね」

「えぇ、まぁ。俺は基本的に、大抵の相手は気に入らないのです」


 嫌悪感を否定することもない()()なラウールに、キャロルはやっぱり気が気ではないが。幸いにも、相手は心身ともに成熟した相手でもあるらしい。ラウールとは違い、非常に穏やかにかつ、大人の対応で切り返してくる。


「目利きの鑑定士さんは、この歯車が気になるのですね?」

「えぇ。何せ、無意味な歯車を大事そうに時計に忍ばせている時点で、こいつには時計の一部以外の意義があると考えるのは自然です。それに……木製である事こそに意味があるのでは?」

「……ふふ、そう……ですね。あぁ、そうそう。その様子ですと……僕が何の適合体なのかも、ご存知なのですか?」

「それが、歯車の素材と何か関係が? まぁ……いいでしょう。もちろん、あなたの核石もそれなりにアタリはついていますよ? おそらく、アメトリンですよね」

「惜しい! 流石、ヴランヴェルトの鑑定士さんは一味も二味も違う。なかなかに鋭いご指摘ですね。しかし……()()()()()、僕の核石はアメトリンではないのです」


 さりげなくラウールを持ち上げながらも、自身の核石はアメトリンではないとヴァンが答えれば。ますます嫌味な奴だと、ラウールはさも気に入らないと渋い表情を見せる。そうしてならばと、もう1つの可能性を持ち出しては、今度こそアタリを()()()()やりましょうと、意固地になるのだから……子供じみていて、いよいよ格好も悪い。


「……なるほど? そういう事ですか? でしたら……アメジストとシトリンの混合体でしょうかね?」

「おぉ! エクセレント! いやぁ、お見それしました。ここまで僕の()()を言い当てたのは、あなたが初めてかも知れません」

「ふ〜ん……左様ですか?」


 褒められてもご機嫌を直さないラウールの様子に、お連れ様の2名と1匹は既に呆れることしかできないものの。ここで不必要に口を挟むと、()()()()なのは重々承知だ。だから……邪魔をしないに限ると、互いに頷き合っては彼らの様子を見守っている。


「僕はアメジストの核石の上に、シトリンの核石を乗せた複数核の適合体……あなた達が言うところの、カケラと言うヤツですかね。それぞれ50%と30%の性質量を持ちますので、一応は宝石(ジェム)の完成体という扱いにはなります。そして……僕は()()()他のカケラの核石を取り込んだ存在でもあるのです」


 そこまで白状して、今度はやや沈痛な面持ちをされれば……不必要に刺々しいラウールも、それ以上の嫌味は引っ込めざるを得ない。寂しげな表情に彼が取り込んだ相手にも想いを馳せては、彼も遣る瀬ないと首を振る。


「……アメジストとシトリンは同じ石英ベースの宝石であり、流通しているシトリンの殆どはアメジストを加熱処理したものが主流ではありますが、一方で……アメジストの中には、変色性を持つ物も稀に存在しましたね。……そう。この時計は元々、あなたの()()()が持ち主だったのですか」

「その通りですよ。僕にはかつて、エイルという妹がいました。……エイルは常々、カケラの耐熱性能のテストを受けさせられていましてね。気づけば、彼女の瞳は紫色と黄色の間で色が変わるようになっていたのです」


 しかし、女性のカケラの耐久性は男性のそれには遥か及ばない。多少の耐熱性があると言っても、30%程度の性質量では強度も高が知れている。そうして、耐久性も度外視の研究対象にされていたエイルの瞳がクラックだらけになるのには……さして時間もかからなかった。


「……そんな僕達を研究機関から救い出してくれたのが、フランシス様でした。彼はエイルが穏やかに過ごせるようにと、メベラス山中の別荘に住まわせてくれると同時に……たまに、外にも連れ出してくれましたっけね。ふふ……だからエイルはよくこの時計を眺めては、5時になるのを心待ちにしていたのです。……アメジストは強い光に曝されると褪色する事がありまして。エイルの瞳は……フランシス様に助けられた時には、既に昼間の光に耐えられない程に()()なっていたのです。それでも、5時を迎えれば変色効果も落ち着きますし……夕方以降であれば、強い日差しに悩まされることもありません」


 そうして、文字盤の5時の所にはとっても素敵な色のサファイアが嵌っていたと、しみじみと呟くヴァンだったが。鎮座していた素敵なサファイア消失の理由を、深追いする必要もないだろう。


「で……そのサファイアはイザベルさんの延命に使われたのでしょうね。だとすると……おや? まさか……イザベルさんはやっぱり、男性だという事になりますか?」

「あぁ、そこも気づいてきます? そうですよ。鉱物を取り込んで延命できるのは、男性のカケラのみですからね。彼は名前こそ女性ですけど、歴とした男性のカケラですよ。とは言え……作られた目的が目的だったので、常々、女装をさせられていたみたいですが」

「……」


 これはまた、妙な事情を聞いてしまった気がする。特に、()()()()()にも心当たりがあるらしい、ジェームズが困ったようにタンカラーを顰めたのは……決して、偶然ではなさそうだ。

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