エメラルドの卵(12)
復活祭に物騒な噂を立てたくはない。そんなドビーの温情で、無罪放免とまでは行かないが……一応の自由は取り戻したバロウとベス。しかし、肝心の承認印のレプリカは取り上げられた挙句に、詐欺罪と偽造罪分の罰金を課せられては、彼らにしてみれば不服も不服。しかも、オルヌカンとルーシャム共用の犯罪人名簿に顔写真付きで名前を登録されるという前科のおまけ付き。……それは暗に、次はないぞという、オルヌカン流の脅しも含む。
「くそぅ……! 話によれば、俺達はまんまと嵌められただけじゃねぇか! 何も悪いことはしてないっつの!」
「本当よね! なーにが、復活祭だから穏便に済ませたい……よ! しっかりと巻き上げといて、よく言うわ!」
卵を盗もうとしていた時点で、何もしていない……という判断にはならないだろうに。その上、普通なら罪状が2種類もある時点で、罰金の上に数ヶ月の禁固刑は手堅いはずである。これでも、十分に穏便な沙汰だと思われるが……夢と野望だけは有り余っているコソ泥カップルにしてみれば、恩赦のありがたみは夕焼けの彼方。しかも罰金で有り金に近い額を絞られたせいで、懐具合は黄昏時の空気以上に寂しいものがある。
「……これからどうする?」
「もちろん、決まっているでしょ? 私達を嵌めた食わせ者から卵を奪ってやるのよ! あ……いいえ、違うわね。この場合は、そいつが卵を換金した後を狙った方がいいかしら?」
モリフクロウの卵は確かに、1つで白銀貨1枚は降らないと言われる至宝であることは、間違いない。しかし、それと同時にあまりに有名な宝飾品であり、市場に出回った瞬間に曰く付きが確定する以上、普通に売り捌くことはできない。そのため……売りに出せないなりに、換金するにはそれなりの手間とルートが必要になる。だから、この場合は全てが済んだ後を狙った方が確実と、ベスが考えるのも当たり前と言えば、当たり前なのかも知れない。しかし、それには絶対に外せない前提条件があるのだが……。
「しかしよぅ、ベス。それは確かに手間も面倒も少ないだろうが……相手が誰か分からないんじゃ、狙いようがないんじゃねぇか?」
「ふふ、打って付けの案内人がいるじゃない。なんでも……泥棒の挑戦状を例の王族様が受けて立つなんて、宣言しちゃったらしいわよ?」
「あぁ、なるほどなぁ。あのロイヤルファミリーを張っていればいいのか!」
「その通り! で、ついでに……赤毛の指輪もいただきましょ!」
ベスは余程、同席し損ねた旅行者の指を彩っていた婚約指輪が気に入ったらしい。それこそ、彼女の指輪も相当に身元が手堅い曰く付きの逸品なのだが……その事情(かなりの裏も含む)をベスが知る術もない。そして真犯人が卵を狙ったのは、決して換金目的ではないことも……欲に目が眩んだコソ泥カップルには、到底想像もできないことであった。




