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掃き溜めのダークオーラクォーツ(27)

「確か、事故現場はこの辺りだったかと……。ジェームズ、何か分かりますか?」

【……チのニオイがカスかにノコっている。これは……ヴィオレッタのニオイだ】

「そう。だとすると……あぁ。カナリーがお喋りしたのは、彼女の言葉ですかね」


 カナリーが死に際に口走ったのは、ヴィオレッタの遺恨だったという事か。そんな事に思い至ると……つくづく貴族様というのは綺麗好きだからいけないと、ラウールは皮肉混じりで鼻を鳴らす。


「ヴィクトワール様はそれらしい証拠品は見つからなかった、と言っていました。それはつまり、彼らが当日に運んでいたダークオーラクォーツも発見されていない事になるのですが……なるほど。捜査が入る前に、さっきの店員さんが拾っていたのですね。だから、肝心の商品が見つからなかった、と」

「しかも、あいつらは汚れるのが嫌だと、一歩も動かなかったしな。人の命さえ、捨てられるような奴らだ。いくら大切なものであっても……泥のついた宝物を拾う気概もないんだろうよ」


 ダークオーラクォーツが餞の延命をもたらしたのが、ヴィオレッタだったとすれば。これ程までに皮肉なこともないだろう。

 彼らは汚れるのを嫌うあまりに、ヴィオレッタを助けようともしなかった。しかし、その事でダークオーラクォーツだけではなく、肝心の家督さえも捨てざるを得なくなったのだから……未だにぬかるんでいる泥道に足を取られたのは、ヴィオレッタだけではなかったようにも思える。


「ダークオーラが纏っているチタンは、イオン化傾向の強い金属でもあります。最近は健康グッズなんかにも使われていますが……なんでも、血液の流れを整える効果があるのだとか。その影響かどうかは知りませんが、ヴィオレッタ嬢の血液を吸って……少しばかり、お熱が回ったのでしょう。落としただけで砕けるとなれば、かのダークオーラクォーツは既に()()()()()()()のだと思います。詳しい仕組みはそれこそ、もう分かりませんけれど。ダークオーラが最期の散り際にヴィオレッタ嬢へ懺悔の時間を与えたのであれば、随分と粋な計らいだと思いますね」

「そう、かも知れないな。あっ、そうだ! だったら……」

「うん?」

「このカナリアはヴィオレッタにするぞ!」

「……いや、それはちょっと……複雑な気分になるので、勘弁してください。えぇと……」


 新しい家族を鳥籠ごと嬉しそうに抱きしめるイノセントに、そのお名前だけは思いとどまって頂こうと、別の候補を必死に探すラウール。そうして、あたりを見渡せば……青年店員が話していた自然公園の花壇に、可憐に花が揺れているのも目に入る。


「……この花、ヴィオラですね」

「ヴィオラ?」

「えぇ。スミレの仲間で、パンジーとの区別は曖昧ですが……確か、小輪のものをヴィオラと呼んだかと」

「そうなのか? ……見れば見る程、可愛い花だな」

「そうですね。それにしても……今の今まで、こんなに見事な花畑があるなんて、気づきませんでした」

【……いつもはハシりサるだけだからな。しかも、あのヒはヨルだったウエに、()()()()()じゃなかった。キづかない、ムリもない】


 確かに、あの日は人命救助でそれどころではなかったし、何故こんな所にベンチがあるのかなんて、疑問にも思わなかったが。しかし、ヴィオレッタを休ませるために拝借したベンチは……ただの休憩用ではなく、こうして花畑を見つめるためのものだったのだと、今更ながらに気づく。


「……なぁ、ラウール。ここにカナリーを埋めてやってもいいだろうか?」

「あぁ、それは名案ですね。こんなにも綺麗な花が咲いてくれる場所であれば、カナリーも寂しくないでしょう。それに……咲いているのがヴィオラであれば、お誂え向きというものです」

「ふむ? 何でだ?」

「……ヴィオレッタはスミレという意味なんですよ。ヴィオレッタ嬢を弔う意味でも、カナリーをお見送りする意味でも……この場所はピッタリだと、思いますね」


 ラウールの答えにどこか満足そうな顔をして、花畑の端にこっそりとカナリーの遺骸を埋めるイノセント。そうして、墓標のつもりなのだろう……最後に小石を十字架型に並べては、いい出来栄えだと小さく胸を張る。


【……それはそうと、イノセント】

「なんだ、ジェームズ」

【そのカナリア、ナマエはどうするんだ?】

「そんなの、決まっているだろう? ……ヴィオラにする」

「……結局、彼女を思い出しそうな気がしないでもないですが……まぁ、いいでしょう。現に、ヴィオラの歌声はとっても綺麗ですし。深みのある声は弦楽器のそれを思わせるものがあります」


 本当はヴィオラと言うよりは、ヴァイオリンだろうとラウールは考えるものの。春の穏やかな陽気に包まれれば、そんな些細な事にこだわるのも馬鹿馬鹿しい。そうして、帰り道のついでに早めの昼食を摂ることを提案すれば。ようやく気分が上向いたイノセントが、無邪気な笑顔で賛成と答えた。

【おまけ・オーラクリスタルについて】

作中にもあった通り、水晶に金属コーティングを施して作られる人工宝石の一種です。

ベースのクリスタル(水晶)基準で考えれば、モース硬度は7。

蒸着させる金属によって色味や名称が変わり、カラーバリエーションも非常に豊富。

また、手軽に手に入る素材でもあることから、アクセサリーの材料としても広く流通しています。


そんな中、いかにも禍々しい名前の「ダークオーラクォーツ」はチタンを蒸着させたオーラクリスタルでして。

いわゆる厨二病を発病させたわけではなく、純粋に色味が黒いからこのように呼ばれます。

なお、石言葉としてはネガティブな思考からの脱却……と、分かるようで分からない意味があるようですが。

いずれにしても、大元が水晶であるだけあって、浄化とヒーリング効果は絶大とされていますです。


現代社会を生きるあなたに、ダークオーラをそっと1粒。

右手の傷が! ……とか。左目が疼く! ……とか。

様々な満身創痍の疲れに効くに違いありません。


【参考作品】

『パンを踏んだ娘』

『小夜啼鳥(アンデルセン童話)』


トラウマソングの代名詞ですね。

食べ物を粗末にしたら、いかんのです。

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