掃き溜めのダークオーラクォーツ(25)
「ただいま戻りました……おや? どうしました? イノセントにジェームズ」
【カナリーが、な……】
「……?」
バツの悪そうな声色で、ジェームズが視線で示す方を見やれば。涙はないにしても、グッタリと項垂れて鳥籠を見つめているイノセントの姿がある。そうして彼女の手元を覗き込んでは、傷心の理由も鮮やかに悟るラウール。どうやら……素敵な家族が1羽、天へ旅立ってしまったようだ。
「……そう、カナリーが死んでしまったのですね。普段の様子からするに、この子は元々気管支が強くなかったのだと思いますが……」
【ラウール、タブンそうじゃない。カナリーも……ちょっと、ワケありだったみたいだ】
「訳あり……?」
「カナリーの喉から、こいつが出てきた。これは、多分……」
「これ……ダークオーラじゃないですか。どうして、カナリーの喉にこんな物が埋まっていたんでしょうかね……?」
ようやく口を開いたイノセントから、手渡されたのは本当に小さな小さな、鋭利な欠片。しかし、大きさは小指の爪にも満たないクセに、異常なまでの不浄の空気を醸し出すそれは……間違いなく、ホワイトムッシュに鑑別を依頼してきたダークオーラクォーツと同じ輝きを放っていた。
「……これはヴランヴェルトに逆戻りした方が良さそうですか?」
【ヴランヴェルトに、か?】
「えぇ。カナリーを譲ってくれたペットショップに、こいつの出どころを聞かねばなりません。様子から察するに、彼らはこれ自体の出どころは知らない可能性もありますが……カナリーの出身地くらいは知っているでしょう」
【……ジェームズはおデかけ、カマわないぞ】
ジェームズは心得たとばかりに、スクっと立ち上がり、あっさりとヴランヴェルト行きに同意を示すものの。カナリーを本当に気に入っていたイノセントは、いつになく落ち込んだまま顔を上げようともしない。その痛ましいまでの萎れ具合に……あまりいい方法ではないとは思いつつ。ラウールが彼女を慰めるために、1つの提案をしてみる。
「イノセント。もし良ければ、一緒に行きませんか? 鳥籠が空っぽなままでは、寂しいではありませんか。……他の子がいたからと言って、君の気持ちが安まるなんては思いませんが……折角です。新しい家族をお迎えするのも、一考だと思いますよ」
「うぐっ……カナリーを途中で埋めてやってもいいか? できれば、綺麗な場所に弔ってやりたいのだが」
もちろんです、と答えながら……決意と一緒に、気持ちも持ち直したらしい彼女のおでかけも促す。そうして、しっかりと鳥籠をぶら下げたところで……イノセントが思い出したように、重要なことを言い出した。
「そう言えば、な。……多分、こんな物が埋まっていたせいだろう。……カナリーが最後に綺麗な声で鳴いた後に、喋ったんだ」
「喋った? まぁ、鳥類はお喋りが得意な子も多いですけど……カナリアはそのタイプじゃなかったと思いますね。……あぁ、なるほど。……そのお喋りも、こいつの仕業でしょうか?」
「そうだと思う。でな。……お父様、お母様、ごめんなさいって。カナリー、言ってた……」
「……」
辛うじて絞り出したような言葉と一緒に、もう1度落ち込み始めたイノセントの背を摩ってやる一方で……ラウールは彼女のダイニングメッセージに気味の悪い感覚を拭えない。
その言葉は明らかなる、謝罪の言葉。カナリーの両親であれば相手もカナリア、になるだろうが……彼女の慚愧は、童話のような素敵なファンタジーで片付けられるような生易しいものではないだろう。
(まるで、例の機械仕掛けのカナリアみたいですね。……死に際に人の言葉を喋るだなんて)
無念にも思いを巡らせては……カナリーの謝罪の相手も見つかればいいのだけど、とやれやれと首を振るラウール。そうして、サイドカーにイノセントとジェームズとをしっかりと乗せて。再び、ヴランヴェルトへバイクを走らせる。




