掃き溜めのダークオーラクォーツ(24)
「いやぁ、助かりましたよ。まさか、アンリエット様がお助けくださるなんて」
「本当ですわ。それにしても……あぁ、嫌だ嫌だ。留置所は家具も食事も、庶民臭くて敵いませんわ」
「……左様ですか。ですが、皆様は既に貴族ではありません。……勘違いなさいませんよう」
「まぁ! 使用人如きが、生意気ですわ。アンリエット様に言いつけて差し上げましてよ!」
どうぞご勝手に……と対象者の座席の向かいで微笑むは、アンリエットの使いでやって来たというシオンと名乗る少女。彼女が多額の保釈金を持参したことで、割合、刑の軽い実行犯のルメオ以外の3名は釈放と相成っていたが……当然ながら、シオンは主人・アンリのお優しさを彼ら以上に把握してもいる。そうして、彼らを舞い上がらせるために豪奢な馬車を用意するのだから、ご主人様は意地悪が過ぎると……尚も悲しげなため息をつかずにいられない。
「これからは、とある場所で過ごしていただく予定です。特に、コッペル様はこちら側の事情をよくご存知ですので、自由も制限させていただきます」
「なんと! しかしだね、私はあのグリクァルツの当主なのだよ? 自由を制限するなどと……」
「既に消滅しているお家柄で胸を張られても、滑稽なだけです。まぁ……ご心配なさらなくても、大丈夫ですよ。皆様の存命と居場所くらいは保証されますから。しかし、今まで通りの生活はできないことくらいは、ご理解ください。窮屈な思いもされると思いますし、刑務所よりは退屈かも知れませんが。でも、寝床だけはあなた様方に相応しい調度をご用意しております」
窮屈でも貴族に相応しい調度が用意されていると聞いて、3名様が当然だとめいめい騒ぎ立てるが。その姿さえも、悲しすぎてシオンは彼らの相手こそをサッサと切り上げたいと考える。彼らの行先を思い描いては、用意された末路はあまりに哀れだと、同情せずにいられない。
「お待たせしました……と、あぁ。アンリ様がわざわざお出迎えくださっているようです。……本日は気候も良くないので、お体に障るでしょうに。余程、皆様のご到着が待ち遠しかったようですね」
「まぁ、そうですの?」
「ウフフ。それも当然ですわ。何せ、私はアンリエット様のお話相手としても、最高のゲストですもの」
「ところで、シオンとやら。ここがアンリエット様のお屋敷なのかね? それにしては……」
随分と無機質すぎるような……と、シオンをしっかりと呼び捨てにしつつ、コッペルが首を傾げるが。彼の疑問も無理はなかろうと、一方のシオンは持ち前の慈悲深さで、彼に餞の回答を差し出す。
「いいえ? こちらはアンリ様のお住まいではなく、大事なお庭の1つです。位置的には旧・シェルドゥラにございまして。地雷原に囲まれた、被験者を収容するには最適な立地にございます」
「地雷原……? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そんな危ない場所に、どうして私達がいなきゃいけないの⁉︎」
「そうよ! 大体、私達はゲストなのではなくて? それを収容……ですって?」
「……先程、自由が制限されると申しましたのは、そういう意味です。私は罪人を苦しめるのは好きではありませんので、きちんと説明いたしますが……今のあなた達はお客様でも、取引相手でもありません。たまたま適合性があったために、拾い上げられた苗床なのです。きっと、例の灰水晶の影響でしょうね。皆様はとっても素敵な適性をお持ちでしたので……アンリ様がお優しくも目をかけてくださったのですわ。……ですよね、アンリ様」
事実を告げられ、慌てふためく3名様の滑稽な様子に辟易していたところで、気心の知れた従者からパーフェクトな模範解答が紡ぎ出されれば。やっぱりシオンは頼りになると、アンリは満面の笑みを溢す。
「シオンの言う通りよ。ここは私の素敵な宝石を生み出すための箱庭なの。……あなた達がヘマをしたお陰で、金緑石ナンバー3に延命の彗星の心臓を奪われてしまったじゃない。……借りていた物を盗まれるなんて、恩知らずにも程があるわ」
「そ、それは……色々と不運が重なりまして……」
「お黙り! あの原石がどれ程の価値なのか、分からないのかしら! お前達の命程度では、到底賄えない物なの! だから……ゴフッ⁉︎」
「あぁ、アンリ様。大丈夫ですか。さ……こちらをお含み下さい」
気候が悪いから、お体に障る。シオンが言った通りの不調和加減を見せつつも……差し出された丸薬をガリリと噛み砕くアンリの双眸は、哀れな被験者達を睨んだままだ。彼女の射抜くような視線に、喀血で途切れた言葉の先をまざまざと理解させられるコッペル達。
「……さて。皆様方もそろそろ……立場を把握できましたか?」
「把握も何も……」
「い、イヤよ……絶対にイヤ!」
「私も嫌ですわ! こんなの……」
「死んだ方がマシ、でしょうか。えぇ、えぇ。勿論、そうでしょうね。存命と居場所は保証されますが、人としての自由は保証されません。あなた達にはこの先、失われた秘宝の代償を命で永遠にお支払いいただきます。あぁ。一応、忠告も差し上げておきましょうね。……逃げ出そうとしても、無駄ですよ。何せ、ここは地雷原に囲まれた秘密の箱庭ですもの。……普通の人間の足で、外界への逃げ道を踏破できる場所にございません」
シオンの丁寧な解説と、アンリエットの悍ましい不気味な笑顔。そうして自由を奪われた彼らの耳に最後の最後まで響いていたのは、金属音でありながら……歌声にも似た悲しくも冷たい、機械仕掛けの不協和音のみである。




