表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
517/823

掃き溜めのダークオーラクォーツ(18)

「紳士淑女の皆様、Bon(ボン) soir(ソワール)……こんばんは、と言いたい所ですが。おや……もしかして、泥棒はお呼びではない? 予告状を出して、おもてなしと一緒に覚悟の準備もお願いしておりましたのに。そんなに()()()()()顔をされたら……色々と、興醒めではありませんか」


 勿論、コッペルも出来うる限りのおもてなし(返り討ち)の準備は、抜かりなくしていたつもりだ。精鋭揃いだと信じていたロツァネル署の面々に、金さえあれば手を尽くしてくれる用心棒に殺し屋。広大な城のありとあらゆる場所で、頼もしいガードマンにも()()に参加してもらっていたはずなのに。

 しかし、そこに佇むは紛れもない、漆黒の現実(失敗の証明)。ありもしない栄光を勘違いしていた伯爵様と、不安を拭えない巡査部長の前には……口元に弓形の牙を見せる、悍ましい笑顔の怪盗紳士が立っていた。


「お前……どうやって、ここに辿り着いた⁉︎ おい! 誰か、誰かいないのかッ⁉︎」

「……無駄ですよ。全員、今頃は素敵な夢(悪夢)の中でお休み中でしょうから。クククク……! 誰も彼もが()()()()()の所作を心得ていないのですから、非常によろしくない。ですので、1つ……忠告をしておきましょうかね。この大泥棒相手に、小手先の悪あがきは通用しないと心得なさいな。とは言え……ククク。あなたが俺の忠告を活かせる場面は金輪際、訪れないと思いますけど」


 最後は嬉しそうにお手上げのポーズを取りながら、肩を竦めて見せるグリード。しかして、紫色の瞳にあからさまに獰猛な威圧感を感じて……伯爵様もブキャナン巡査部長も縮み上がっては、フルフルと震え始める。それもそのはず、わざとらしく手のひらを向けた彼の指先には、見覚えのあるデューツィア(水晶花)をあしらった恭しい封書が収まっているではないか。今度はその煤色の現実(堕落の証拠)に、底知れない恐怖が伯爵様を容赦なく襲い始める。


「お前、それをどうするつもりだ⁉︎」

「う〜ん……どうしましょうかねぇ。とりあえず、警察に代理で提出して差し上げましょうかね。……この泥棒めは今、とっても()()()()()のです。こうも城中に()()()で満たされれば……貴族様のやり口に吐き気を催すのも、反吐が出るのも、当然でしょう?」


 吐き捨てるように飄々と嘯きながら、都合の悪い証拠品を懐に収めつつ。今度は手品よろしく、グリードは指先に鈍い灰色の宝石を摘み上げて見せる。それは紛れもなく……グリクァルツ家宝の()()であり、何よりも隠し通さなければならない後ろ暗い灰結晶。白グローブの手元でキラキラと輝きながらも、尚も感覚が麻痺しそうな背徳の悪臭を撒き散らす。


「……さて、まずはお喋りからお願いしましょうか。こいつについて、根掘り葉掘りお聞かせ願いたいのですが?」

「別に、そいつが何だと言うのだ。それはタダの……」

「おや、こいつが普通のダークオーラクォーツなものですか。かつて、あなたのお祖父様が国王に献上した“機械仕掛けのカナリア”は、これと同じ鉱石を胸元に搭載していたようですね。その結果、()()は気ままに歌い、気ままに飛び……そして、最後に絶望の言葉を吐くまでの命を宿していた。そう……こいつは普通の宝石じゃありません。全面的に取引が禁止されている、()()()()です。そして……それが禁止されている理由はたった1つ。この宝石が他の命を犠牲にして、他の命を助けうる魔法の水晶だから……でしたかね」


 あの日……グリクァルツ家の面々が()()()()で道中を急いでいたのは、取引相手が絶対に怒らせてはならない相手であり、ロツァネルの秘密を全て知る者だったから。かの組織はロツァネルの衰退に悩んでいたコッペルの祖父に、禁断の秘術の大元を齎した存在であり……()()を提供していた()()()()だった。

 そして、組織の()()()()()は同じ年頃の娘とお喋りをするのを、楽しみにしているらしい。父と息子は背徳の取引を担当し、母と娘はご機嫌取りのお茶のお相手を担当して。一連の取引は、ロツァネルの繁栄を裏で牛耳る彼女のご機嫌を終生損なわないためであるし、多大な見返りを得るための手段でしかない。大人しく機械仕掛けの体を維持するための魔法(灰水晶)を提供さえしていれば、グリクァルツ家は後世に亘る安泰を約束され……実際に組織から齎された技術はロツァネルを大いに発展させ、旨味さえも提供してきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ