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掃き溜めのダークオーラクォーツ(10)

 マリトアイネスの共有墓地でしめやかに行われるは、()()()()()()()の小規模なお見送り。今回の葬儀はあくまで、ロンバルディア騎士団が怪我人を救護し、残念な結果を迎えてしまったが故の「形式的な葬儀」とされていた。身元が判明しているのだから、親族による遺体の引き取りや、葬儀の手配くらいはあっていいはずだが。……ブキャナン家はヴィオレッタの身柄引き取りを、頑なに拒否したらしい。彼らの事情は関係ないと言えば、関係ないのだが。()()()の薄情さに、生前のヴィオレッタに散々苦労させられていたラウールも憤らずにはいられなかった。


「お久しぶりですね、ラウール様」


 しかし、珍しい感傷もとある人物の姿を認めて急激に萎むのだから、つくづく自分も薄情ではないかと思わずにはいられない。参列者の顔ぶれに、忘れられない面影が紛れているなんて。()()()過ぎるにも程がある。



「……えぇ。お久しぶりです、ルヴィア様。こんな形で再会することになるなんて、思いもしませんでしたが……あなたもヴィオレッタ嬢とお知り合いだったのですね」

「別に知り合いじゃないですよ。とにかく……これ以上はいいですか? ルヴィアは見ての通り、非常に()()()()()ですので。そろそろ、私達はお暇しようかと」


 互いに秘密を伏せながら、差し障りなく旧交を温め直していると。ラウールとルヴィアの会話に、野心的な雰囲気の実業家らしき男が割って入ってくる。強引なご登場にラウールが面食らっていると、穏やかな様子でルヴィアが彼のご紹介をしてくださるが……それさえも、何故か挑みかかるように途切れさせる男。どうやら、彼はラウールとルヴィアが言葉を交わすのが、とにかく気に入らないようだ。


「もぅ、あなた。この位は平気ですよ? ()()()のお見送りくらい、きちんとさせて下さい。……あぁ、失礼致しました。こちらは私の主人で……」

「エルロック・リッツトールと申します。見ての通り、しがない()()()()ですが」

「あぁ、あなたがあのリッツトール様ですか。……確か、このマリトアイネスで製粉会社を営まれていましたね」

「ほぉ、王族に連なる()()()ラウール様にもお見知り置き頂けて、光栄ですよ。それに、いつかの時は()()()()()()()()を贈ってくださったようで。……改めて、この場でお礼を申し上げます」


 所々に嫌味を混ぜ込んでいるのを見るに、彼の闘争心は相当らしい。もちろん、ルヴィアと話をできるのは純粋に嬉しいが……これでは楽しいお喋りどころではないだろう。そんな彼の様子に、もう()()()()()()はないと教えてやれば、()()()()()()かと考える。普段であれば、嫌味の応酬をするところだが……秘密に遠慮していることもあり、存外、ラウールは冷静だった。


「いいえ、礼には及びません。あぁ、こちらも自己紹介しておいた方がいいでしょうかね。……彼女はキャロルと申しまして。俺の()()()です。それで、養子のイノセントに……愛犬のジェームズです。本来、葬儀に子供と犬が参列するのは不適切なのでしょうけど。ヴィクトワール様の()()()もあり、こうして()()()()で参列しております」

「おや、そうだったのですね。あぁ、失礼。……こちらは()()()でしたか……」


 ラウールの()()を器用に汲み取って、キャロルがきちんとカーテシーをして見せれば。流石のエルロックも多少は安心できるようだ。トゲがびっしり生えていた態度を引っ込めて、少しばかり恥ずかしそうに俯く。そんな主人の様子にクスクスと笑いながら、退出を促すルヴィアと素直に従うエルロック。

 そうして、2人連れ立ってその場を後にするが……彼らの姿に思うところがあるらしい。キャロルがポツリと、ラウールが焦ってしまうことを呟く。


「……本当に綺麗な方でしたね、ルヴィアさん。あの大泥棒さんが一目惚れしたのも、よく分かる気がします」

「ゔっ……キャロル、それはここで思い出す事ですか?」

「あら? ラウールさんは、何をそんなに焦っているのかしら?」

「どうして、キャロルは俺にだけ意地悪なんでしょうね……。まぁ、今は君の意地悪はいいとして。イノセントとジェームズにもわざわざ参列してもらったのは、別の用事があったからです。すみませんが、この後はヴィクトワール様の所に一緒に来てもらっても、構いませんか?」

「あぁ、勿論だ。……()()が必要なのだろう?」


 その通り。大事そうにカナリーの籠を抱えるイノセントの指摘に、少しだけ険しい表情を浮かべて応じるラウールだったが。彼らのやりとりが途切れるのを待っていたのか、棺の埋葬作業が始まったのを合図に、ヴィクトワールがこちらにやってくる。そうして仮喪主を務めた彼女に連れ添われて、用意されていた馬車に乗り込むラウールご一行だった。

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