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砂漠に眠るスリーピングビューティ(14)

 目を凝らした先の角から、とうとう恐れていたはずの怪物がゆっくりと姿を現す。身長こそラウールとさして変わらないが、赤黒く爛れた肌に覆われた頭部はやはり、人間のそれではない。ワニのような頭部に、長い尾を引きずる様子は……まるで小さな恐竜のようだ。


「……見れば見る程、悍ましい姿ですね……。しかも……」

(あぁ。古代天竜人は伊達に、天空都市を築いていないと言うことだ。……かつては大きな翼で、空を自在に飛ぶ事もできた)


 しかし、怪物の背には翼の名残があるだけで、肝心の大部分は腐り落ちてしまっているらしい。そのため、今の彼には飛行能力はないと見ていいだろう。だが、天竜人がかつて飛べたとなると……もう1つの悪い予測に思い当たっては、白亜の聖剣を握りしめる手に力が入る。


(ラウール?)

「……それは要するに、こいつ以上に()()()()の方は厄介かもしれないと言う事でしょうか?」

【とりあえず、それをカンガえるのは、アトマワしだ。……メのマエのヤツのコエにハンノウしたのか……タブン、ホカにもこっちにキているヤツがいる】

「……何ですって?」


 1匹だけでも勘弁して欲しいのに、ジェームズが感知したところによると、怪物は複数体いるそうだ。そんな非常に宜しくない情報を頂いて、ラウールが怯んでいる間にとうとう、目の前の怪物の方が臨戦体制を取り始めた。手足の鉤爪はどうやら、ただ早く走るためだけのものではないらしい。器用に4つ足の爪を壁に食い込ませ、奇声を上げながら異常なスピードでこちらに突進してくるではないか。


「イノセント! 炎をお願いできますか!」

(任せろ! しかし……色といい、動きといい。……まるで、あの黒い害虫のようだな。これが我らの主人の姿かと思うと胸が痛む……)


 あの黒い害虫……とイノセントが寂しそうに言うものの。気味の悪いコメント付きの感傷に構っている暇もないと、ラウールは青い炎を吹き出し始めたイノセントを思いっきり振り抜くが……。


「……⁉︎」

【ラウール、ウシろだ!】

「クッ……! 意外と素早いですね……!」


 ジェームズのフォローをしっかりと受け取って、振り向きざまに白銀を横に薙ぐ。そうして、今度は見事にスパッと尻尾を切り落としたものの……予想外の顛末に、思わず慄くラウールとジェームズ。


「ヴっ……!」

【ヒィぃぃぃ! のたうってる、あのシッポ……のたうってる!】


 腐っているはずの尻尾は、素敵な(運が悪い)ことに神経はご健在らしい。まるでトカゲの尻尾のように、その場でビチャンビチャンと、あたかも不気味な音を響かせながら、辺りに悪臭と肉片とを撒き散らし始めた。その様子に、ここは地獄かと改めて錯覚するラウール。しかも……。


「……イノセント。もしかして……天竜人って、再生能力もあったりします?」

(そればっかりは、私も知らん。しかし……目の前のアレを見れば言わずとも、だろうな。……仕方ない。ラウール、私を一旦手放せ。ここは……一気に燃やし尽くしてくれようぞ!)


 尻尾を切り落とされても痛がる様子もなく、平然と()()()()()を瞬時にボコボコと音を鳴らしながら()()()怪物。その様子に、イノセントは中途半端に応戦したところで気分が悪くなるだけだと判断したらしい。ラウールが彼女の身柄を解放すると、瞬時に純潔の竜神の姿を顕しては浄化の青い炎を吐き出し始める。彼女の眩いばかりの灼熱に、いくら縦横無尽に移動できようとも、逃げ場がないのは相手も一緒だ。廊下中を炎で埋め尽くされれば、流石の怪物も消し炭になるしかない……ハズだったのだが。


「嘘……ですよね?」

【……ジェームズもウソだと、イってほしい……】


 ……嘘ではない。これまた、紛れもない現実である。竜神様の高熱の炎を持ってしても、火葬は嫌だと言わんばかりに、揺らめく陽炎の中で獰猛な奇声を上げ続ける怪物。流石にある程度のダメージはあるようだが、足取りには未だにこちらを諦めていない執念を感じさせる。


【……ラウール。1つ、試してほしいことがあるのだが】

「はい、何でしょうか?」

【例の拘束銃とやら、持っているか?】

「えぇ、一応……。あぁ、もしかしたら……彼らにも効果がありそうなのですね?」

【多分、な。私の炎で燃えないとなると……おそらく、彼らも何らかの()()を余儀なくされた後なのだろう】


 宝石は意外と燃えたりするんですけどねぇ……と愚痴りながらも、ゆらゆらと近づいてくる怪物がやってくる前に、トランクから取り出したジェムトフィアを構わず打ち込むラウール。至近距離のため、別の()()()()が頭を掠めたが……予断なく人型に戻ったイノセントを誤認識する事もなく、いつになくお利口な光の鎖が狙い通りの相手を雁字搦めにし始める。


「……まさか、こいつが怪物相手にまで効果を発揮するなんて、思いもしませんでしたけど。とりあえず、対抗手段が見つかっただけ、良しとしましょうか」

「そう、だな……。しかし……この酷い臭いはどうにかならんのか⁉︎」

【キュゥぅぅん……! ジェームズ、もうゲンカイ……!】


 どっちにしても気分が悪くなるのは、変わらない。自身も色々と我慢しながら、とりあえず例の壁の文字の解読をイノセントに促すラウール。そうして……酷い悪臭の中、彼女が解読を終えるまではしっかりと護衛を買って出るものの。最終的に、彼らの足元に転がった怪物の数は3体にもなっていた。

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