砂漠に眠るスリーピングビューティ(7)
夜目が利くというのは便利な反面、見たくもない光景もきっちり拾ってしまうのだから、厄介だ。
意外と広い落とし穴に、出口はないかと探してみれば。何処もかしこも、「永遠にさようなら」されてしまった哀れな被害者達の骸が転がっている。
「あの様子だと……彼女は余程、漏らしたくない何かを隠しているんでしょうかね?」
【だろうな。……しかし、そのレベッカだが……】
「……何かの同類だろうな。瞳の色からして……それこそ、ターコイズか?」
でしょうね……なんて、三者三様にやれやれと肩を揺らしつつ。もっと早くに気づくべきだったとも、思ってしまう。
足元に転がる遺体はどれもこれも、骨と皮だけの悲惨なものばかり。腐りかけがない時点で、相当の期間……数十年単位の時間が経過していると見ていいだろう。だが、先程のレベッカは20代後半くらいの若々しい印象だった。にも関わらず、経験豊か過ぎる身のこなしに、この落とし穴の状況である。相手の中身が、実はお婆ちゃんでした……と考えた方が自然だ。
「……まぁ、彼女の正体はさておいて。彼らがこんな事をしでかしている理由は、察しがついています」
「ほぉ? そうなのか?」
【あいつらがモちコんでいたのは、タンコウヨウのチチュウレーダーだったな。だとすると……】
「えぇ。おそらく、遺跡が埋まっていた場所に地下資源……地質からして、石油でしょうかね……が埋まっているのだと思います。しかし……その予想が当たっているとすれば。国家的には、非常にマズいことになりそうです」
【うむ。だとすると……かなりヤッカイだな】
「……何がだ? 何がそんなに、厄介なんだ? ……私にも分かるように説明してくれ……」
暗闇に慣れ始めた視界で、ハッキリと分かるほどにイノセントが膨れっ面をして見せるものだから、仕方なしに彼女をあやすように抱き上げつつ……事と次第を説明するラウール。
「……俺達が今回こちらに派遣されたのは、ヴィクトワール様のご用命があったからです。で、そのヴィクトワール様はアンディ氏率いる調査隊の資金を潤沢に出していました。勿論、彼女が出資をしているのは、アンディ氏が紛れもなくロンバルディア公認の考古学者だからです。しかし、彼が遺跡調査と見せかけて……他国の地下資源探査をしているのだとすれば。マーキオン側からすれば、略奪行為に他なりません。要請もないのに、勝手に他国の資源調査をするのは違法なのですよ」
「……なるほど、な。要するに……ロンバルディア公認の調査隊が違法行為をしでかしているかも知れないから、厄介なんだな?」
「ご名答。で、悪いことに……おそらく、彼らは出資者から資金を吸い上げるために、こうして定期的に鑑定士なり、学者なりの派遣を要請することで、調査もしていますとアピールしているのでしょう」
【で、タてられたのが、チュウトハンパにリフォームしたチジョウブブンなんだろう。……あのヨウスだと、ワナのハンブンくらいはジサクジエンっぽいな。それで、ショウニンはノロいのせいにして、クチフウじ……と】
おぉ、怖い怖い……と、ジェームズがわざとらしくブルブルと身震いするものの。そんな事を悠長に話しながら、ようやく出口らしい隙間を見つけたのも、束の間。その先に広がっている光景に、思わず言葉を失うラウール達。それもそのはず……やや広めの通路に並んでいたのは、先程の被害者達とは対照的なまでに丁重に葬られたミイラの列。これは驚くなと言う方が無理だろう。
「もしかして、リュチカ神殿って……」
「神殿ではなく、墓場だったのかも知れんな」
【こいつら、ウゴいたりしないよな……?】
「ジェームズ……お願いですから、不穏な事は言わないでくれませんかね?」
【うむ、スマない……】
しかし、ジェームズの戯言を受け流したくても、彼の言葉が現実味を帯びるような痕跡を床に見つけてしまうラウール。何かを擦ったような跡が、通路に積もる砂を掻き分けており……これは明らかに、つい最近誰かが移動した後のような気が……?
「……まさか、呪いの方は本物でしたか?」
【……ウソ、だろ?】
それこそ、呪いのクダリは彼らが調査を円滑に進めるための作り話だと思っていたのだが。しかし……今度は彼らを確実に恐怖の底に叩き落とす、ドアを閉じる音がどこからか響いてくる。
「今……バタンって言いました?」
「うむ、確かに聞こえたな。……さっきのは誰かがドアを開けた音だ」
【このアシオト、レベッカじゃなさそうだな……。ラウール、ムこうから……ナニかクるぞ】
ここは一旦……さっきの部屋に戻りましょうか。そんな事を喋る余裕もないまま、来た道を引き返す2人と1匹。相手を確認する好奇心以上に、この状況では恐怖心が圧倒的に勝る。まさか、探検ツアーが脱出アドベンチャーになるなんて……予想外もいいところだ。




