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砂漠に眠るスリーピングビューティ(5)

「この先は一応、前回の調査で新規に発見された部屋でして……」

「新規に発見された部屋? 聞いた話ですと、今までいくつもの調査隊が遺跡に足を踏み入れたと、聞いていますが。それなのに……」


 どうして新規に発見された部屋が、最初のフロアから一直線の分かり易い所にあるのだろう。こんな場所にある部屋ならば、とっくの昔に発見されていてもいいだろうに。小さな女の子の手を引くラウールの疑問に、彼を案内しているアンディ氏の助手・レベッカが「そうですよね」と応じながら、理由を話し始める。


「……実は、この遺跡が500年も放置されていたのには、呪い以外の理由があるんです」

「呪い以外の理由?」

「えぇ。原動力が何なのかは分かりませんが……まだ、この遺跡は神殿として()()()()()みたいでして……」


 「少し待っていて」と手のひらをラウール達の方に向けては、レベッカが慎重に部屋の入り口を窺い、足元の石ころを放り投げる。投げられた石が床に着地した瞬間と同時に、それを合図とばかりに部屋の扉の上から何かが鈍い音を響かせながら落ちてくるが……。そうして落ちてきたものの正体を認めては、やれやれとため息をつくラウール。確かにこの調子では、ワクワクの()()()()()どころではないだろう。気軽な観光でさえ、命がいくつあっても足りない気がする。


「……本当にこの神殿、古代の遺跡なんですかね? アンディさんがさりげなく、リュチカ文明には製鉄技術もあったなんて言っていましたが……」

「本当に、びっくりですよね。部屋に入ろうとするだけで、上からギロチンが落ちてくるんですもの。でも……調査のために外そうにも、この刃自体も特殊な素材でできているのか、仕掛けを壊す事もできなくて。そんな稼働中の罠がたっぷりとあるものですから、新規調査が進まないのも無理はないのです。あっ、因みにですね。ここは隠し扉があった場所の壁を取っ払った状態なんです。この安全を確保するのも、大変だったんですよ!」

「さ、左様でしたか……」

「……随分と物騒な神殿だな、ここは」

【キュゥゥン……】


 新規発見された部屋は要するに、きちんと整備した後の状態だったから分かり易い場所にあるだけらしい。レベッカによると、この廊下が発見されるまでは罠だらけの迂回ルートを通らないと宝物庫に辿り着けなかったとかで……()()()ショートカットは、先人の知恵と努力と犠牲の上に成り立っているそうな。


「レベッカさん。1つ、質問をいいでしょうか?」

「はい、どうぞ?」

「……たくさんの調査隊が壊滅してきたのって、呪いと言うよりは罠のせいな気がするんですけど。……合ってます?」

「半分正解……ですね。罠自体の素材はともかく……このギロチンを始め、仕組みは非常に原始的なものです。なので、場所さえ把握してしまえばどうって事もないんですけど。……実際、この遺跡には正体不明の怪物もいるみたいですよ。宝物庫の宝物に触れた人はみーんな、眠っている間にその怪物に胸を抉られて死んでしまうのです」

「……あなたが俺を案内しようとしているのは、その宝物庫とやらですよね? しかも、触れたら呪い殺される首飾りの鑑定を、俺にさせようとしているのですよね?」

「その通りです! ふふふ、ラウール様、ファイトです!」


 罠の存在さえも軽く受け流した挙句に、根拠不明の笑顔で励まされても、安心材料は何1つ得られない。それでなくても……。


(やはり、何かがおかしい……。このオーバーテクノロジーはもしかして……)


 キュリキュリと原動力不明のエネルギーで戻っていくギロチンの下を潜りながら。趣向はかなり違うが()()()()()()のドアを()()()()()()で見た記憶があると、俄かに思い至る。そうして、その地名に懐かしいコーヒーの銘柄(マウント・クロツバメ)を思い出しつつ、子連れの宝石鑑定士は無事にママ(キャロル)の元に帰りたいと考えては……僅かばかりの安心材料は積んでおきましょうと、回避したばかりの罠に悪戯を仕掛ける。


「って、ラウール様! 何をしているんですか!」

「帰り道の安全くらいは、確保しておこうと思いまして。えぇと……こいつはタダの鉄ではなさそうですね。鉄だったら多少は腐食すると思いますが、()()()()()()()らしい割には、そんな部分も見当たらないですし……どれ」


 悠長に言いながら、トランクの中から特殊薬品の小瓶を取り出すラウール。そうして細心の注意を払いつつ、登りきっていない鎖部分にスポイトで()()()()を垂らしてやれば。みるみるうちに、か細い鎖が溶けて千切れる。


「す、すごい……! もしかして、ラウール様って魔法使いか何かなんですか⁉︎」

「……そんな訳、ないでしょう。こいつは王水と言いまして。金やプラチナなど、耐酸性が非常に強い金属を溶かす際に利用する薬品です。あぁ、でも。こいつに王水なんて大層な名前を付けたのは、他ならぬ錬金術師みたいですから……魔法使いじゃなくて、()()()()でも名乗るべきですかね?」

「あっ、そういう事ですか……。だとすると、この刃はプラチナでできているんですか?」

「どうでしょうね? 相当に頑丈な金属だと思いますけど、純粋なプラチナでもない気がしますね。とりあえず、鎖の切れ端を少しばかり失敬しましょうか。こいつも後で調べてみましょ」


 金やプラチナであれば、頑丈でも人間が壊せない程の強度を持つ事はないだろう。そうして、なぜかジリリと熱を帯びている欠片を見つめながら……今回も厄介な事に巻き込まれそうだと、ご案内を再開し始めたレベッカの背後でラウールはため息をつくのだった。

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