ヘマタイトを抱くミラージュハーレキン(13)
鳴り止まない拍手に違和感を覚えつつ、ステージの上でそれらしく愛想を振りまいていると……奥から朗らかでありながら、不気味な笑顔を貼り付けたハーレキンがやってくる。彼の瞳は焦点が合っていないにも関わらず、こちらをしっかりと狙い澄ましているようにも見えて。相手はやはり人ではなさそうだと、グリードはクリムゾンを抱き寄せ、身構えていた。
「おや、おや! 怪盗紳士は随分と芸達者なのだね。先程の曲芸、とっても見事でしたよ! 是非に、ウチのサーカスに加わって欲しいものですな」
「お褒め頂き、光栄です。しかし……生憎と、今宵はオーディションを受けにきたのではないのです。この泥棒めは何よりも光るものが好きでしてね。貴方様がお持ちのゼブラジャスパーを頂戴したく、参上した次第なのです」
「ほぉ? ……しかし、君達はこの状況でも変わらずにいられるのだね。この空気に飲まれない者など……そう、いないと思っていたのだが」
やはり、鳴り止まない拍手喝采は彼の自作自演らしい。どこまでも胸糞の悪い演出に、腕の中で怯えているらしいクリムゾンの背を摩ってやりながら……笑顔には笑顔で応酬しましょうと、余裕のデビルスマイルで牙を見せつけるグリード。そんな闖入者の悍ましい笑顔に、不気味なハーレキン・サージュも負けじと口角を耳元まで吊り上げて、恐ろしい嘲笑を見せる。
「なるほど、なるほど……どうやら、君達もこちら側の奴のようだね。しかし……ノン、ノン! 今、このテントを包んでいる空気はまだまだ、序の口の魔法なのさ。さてさて……果たして、君達は本物の恐怖に耐えられるかな……?」
「本物の恐怖……ですか?」
それなりの神経毒を想定して、青銅の装飾をそれぞれのマスクに施してきたが。彼の言い分では、それすらも不十分だった様子。最早、ただただ拍手をするだけの虚な人形に成り果てた観客達に見守られながら、本物の恐怖とやらを熱っぽく再現し始めるサージュ。そうして彼の茶褐色の瞳から、眩いオレンジ色の怪光が放たれれば。神経そのものを握りつぶされたように、グニャリとグリードとクリムゾンの意識が歪む。
「こ……これは……?」
「グ、グリード様……! 何だか、急に力が……抜けて……」
「……私はね。この世界にず〜っと昔から存在した、魔法使いさ。ですから……ノン! ノンッ‼︎ 相手が同類だろうが、化け物だろうが……このセント・サージュの餌になり得ない者などありはしない! あぁ、安心したまえ。私は美味しいものは、最後に取っておく主義なのだ。君達がその魔法に殺される頃に、改めて……核石をいただくとしようかね」
「……!」
彼の奥の手は神経毒でもなく、魔法の粉でもなく。一定リズムの怪光による、幻惑そのもの。まさか相手の趣向がここまで多岐に渡るなど、想定していなかったグリードにとって……この失態は痛恨のミスどころでは済まない。自身の手落ちが招いた状況で、朧げになり始めた視界の先では……サージュは既に人の形を保つことさえ、止めていた。
鳴り止まない空虚な拍手と歓声と……いつの間にか暗転していたテントの中でさえ、確かに煌めく無数の光と。グリード達に残されたなけなしの神経を隈なく刺激する音と光は、得体の知れない底なしの恐怖を、確かに引きずり出す。
その光源はセント・サージュの本性でもある、大きな大きなミラースパイダーご自慢の、腹部に蓄えたコレクションの数々が命を燃やして得られるもの。彼はそんな限られた魔法を維持するために、餌を定期的に備蓄・捕食しているに過ぎないのだった。




