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ヘマタイトを抱くミラージュハーレキン(3)

 男性陣がカフェで一息ついている頃。華やかな空気を満喫しながら、店を物色しつつ……ふとした拍子に、キャロルとイノセントは催事スペースでもある広場に出てしまっていた。賑やかな広場では、ちょっとした催し物の宣伝をしている様子。宣伝ついでに、数人のハーレキンが周囲の子供達に赤い風船を配っているのが、目に入る。


「おぉ! キャロル、あの赤いのは何だ?」

「風船ですよ?」

「風船? うむむ……。翼やプロペラもないのに、浮いているぞ……?」

「あぁ、あれはですね。中に空気よりも軽いガスを詰めていて……って、そんなことはどうでもいいですよね。折角ですし、1つ、貰ってみましょうか?」

「私も貰っていいのか⁉︎」


 イノセントは風船を初めて見るらしい。そんな彼女にとって、()()()()()()()を1つ分けて頂戴と、お願いすれば。笑顔の化粧に違わず、愛想良く戯けた調子でイノセントに風船の紐を1本、握らせてくれるハーレキン。片や、キャロルは保護者にでも見えたのだろう。今度は泣き顔の化粧をしたハーレキンが、彼女には催し物のチラシを手渡してくる。


「……サージュ・サーカス……?」


 喋らないにしても、身振り手振りで泣き顔ハーレキンがチラシを示すところによると。サージュ・サーカスは各地へ出向いては、期間限定で興行をしている移動式サーカスのようだ。そして、チラシに大きく「いよいよミリュヴィラに、あのサージュ・サーカスがやってくる!」と銘打ってあるのを見る限り……サージュ・サーカスがロンバルディア中央街に来るのは、初めてらしい。


(サーカス……かぁ。私はあんまり、こういうの好きじゃないかも……)


 少し前に知り合ったシマウマ(レユール)はそのサーカスで見世物になるのが嫌で、逃げ出していたのだ。無論、動物虐待まがいをしているサーカスの方が珍しいのだろうが……レユールの涙ながらの訴えを知っているキャロルとしては、サーカスにはどうしても動物に優しくないイメージが付き纏う。

 そんなことをぼんやり考えながらも、そろそろラウール達の元へ帰ろうと、イノセントに提案するキャロル。そうして、イノセントに初体験の真っ赤な思い出(風船)をプレゼントしてくれたハーレキン達にお礼を言いつつ、来た道を戻るのだった。


***

「ほぉ……サーカス、とな。しかし……うぅむ。こいつは随分とキナ臭いのぅ」


 ラウール達が待っているカフェに戻ってみれば。テーブルにローストビーフサンドにチーズケーキまで並べているムッシュが、困り顔でキャロルの持ち帰ったチラシを見つめている。どうやら彼には少しばかり、サーカスの名前に心当たりがあるようだ。


「……まさか、こんな形で遭遇するなんての。あぁ、ラウちゃん。もしかしたら……ちょっと、お仕事をお願いすることになるかもしれん」

「仕事ですか?」


 続けてビジネスのお話を……と、見せかけて。ここはサントル・コメルシィアルの目抜き通りに連なるカフェである。そんな不特定多数の通行人がいる場所で、気軽にお喋りできる内容でもないのだろう。しばらく、チラシを見つめていたかと思うと……フィールドチェスターコートの内ポケットからペンを取り出し、ムッシュがチラシの裏に文字を走らせる。


「……なるほど。このサーカス……()()()が絡んでいるのですね?」

「そうじゃ。この間、ラウちゃんから()()()()の報告が上がっておったじゃろ? で……その彼なんじゃが。少し前に、()()()が強引に農場から連れ戻したと報告があっての。詳細は後で連絡するから、調査を頼まれてくれんかの?」


 だとすると……レユールが逃げ出したサーカスこそが、このサージュ・サーカスだったのだろう。しかし、レユールの事情とは別に、ムッシュは以前からサージュ・サーカスを知っているような素振りを見せている。だとすると……?


(レユールの核石は、ジョナサンと同じ経緯で根付いたものではなかった……ということでしょうか?)


 ムッシュの口ぶりを聞く限り、おそらくサージュ・サーカスは()()()()()で目をつけていた相手なのだろう。それに、チラシの内容を見る限り……今の今まで、サージュ・サーカスは何らかの理由でロンバルディア中央街を避けてきた可能性が高い。

 サーカスの入場料は、決して安くはない。そうともなれば、何かとお金持ちが集まる中央街には真っ先に興行に来ても良さそうだし……それこそ商売である以上、収益が見込める街への興行は回数だって自然と多くなるはずだ。


「……ラウール達はこのサーカスに行くのか?」

「多分、そうなる可能性は高いでしょうね。何せ、お仕事ですから」

「私も行ってみたい……」

「えっ?」


 他の全員がチラシに懸念混じりの()()()を注ぐ中、突拍子もないことを言い出すイノセント。別にラウール達は遊びに行くわけではないのだが……どうも、彼女は真っ赤な風船を余程、気に入ったらしい。1人だけ明後日の方向にワクワクしだした彼女の様子に、嫌な予感を募らせて寒気を覚えるラウール。今回のミッションもどうやら……()()()のお荷物付きになりそうだ。

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