疾走せよ、ゼブラジャスパー(8)
ロゼッタの子守にラウールが奔走している間、農場の空気を満喫するついでにキャロルとジェームズとで食材の買い出しに繰り出すものの。幸いにも、物騒な空気を醸し出しているのはロゼッタ率いる騎士団周辺だけらしい。広々とした敷地内のあちこちで、馬や牛達が思い思いに草を食んでいる姿を見ては、息抜きにやってきて良かったとキャロルは考えてしまう。
「……本当に、長閑でいい所ですね。あっ、ジェームズ! あそこにアヒルさんがいますよ!」
【ホントウだ。こうもオダやかだと……ラウールのクロウカゲンが、カエってキのドクだな】
「そうですね……。それにしても、ロゼッタ様って普段、どんな生活をしているのでしょうね? 軍人さんって、みんなあんな感じなのでしょうか……?」
【イヤ? タブン、カノジョがトクシュなだけだろう。あぁなったリユウはジェームズもショタイメンだから、よくワからんが……アイテは、あのクロバラだからな。もしかしたら、コドモのトキからグンジンとしてソダてられたのかもしれんな】
ジェームズによると、ノアルローゼは攻撃的なだけではなく、何かとプライドも高く……ロンバルディア騎士団創設時から中枢を担ってきた自負もあり、殊、本家側の選民思想は強力なのだそうだ。そんな選民思想が祟った結果、本家側との境界線を設ける意味でのミドルネームを持つ傍系の家系が3つ程、現存しているのだが……。
【……モトモト、ミドルネームはセンレイメイとか、シュウキョウガラみでツけるモノだけどな。このバアイは、ホンケのボーダーをシメすイミで、アえてゴヨウしているんだろう】
「そうなのですね……。でも、今は本家さんの方が……」
【ウム。このアイダのセンジョウパーティで、ダイシッタイをしでかしたからな。イマじゃ、ムジルシのヤツらのホウがコソコソしているな】
皮肉なもんだ……と、なだらかな肩を器用に揺らしながら、ジェームズが寂しそうに笑ってみせる。
きっとロゼッタはそのミドルネームを背負いながらも、成果を上げようと必死だったのだ。幼い女児に厳しい訓練をさせるのは如何なものかと、ジェームズも思うものの。彼女の様子を見る限り、それは自身の意思とプライドが幅を利かせてもいるのだろうと、推測していた。
ラウールの「父親に言いつける」という殺し文句が、かなりの有効打であるのを見ていても、ロゼッタは父親を相当に尊敬しているようだし……父親のために、彼女は立派な軍人になろうとしているのだろう。しかし……。
【とはイえ、サイショからサイゴまで、あのチョウシだからな。やっぱり、おコサマにはキシダンのクンレンはハヤスぎだと、ジェームズはオモうぞ】
「私もそう思います……。普通に生活していたら、農場の牛さんを昼食にしようなんて発想は出てこないでしょうし……」
【だよな。……ラウールがトめていなければ、あのウシはイマゴロ、ステーキになっていただろう】
何かにつけ熱心過ぎるロゼッタは、あろうことか、休憩時間を野営に見立てて……食料を現地調達せんと、牛をアサルトライフルで狙い始めた。子供ながらの無邪気さで、さも当然と、そんなことをロゼッタは言い出したが。……その非常識加減は、相当の部分で常軌を逸している。本人は牛くらいは捌けると、豪語していたものの。……無論、気にするべきポイントはそこではない。
【それはそうと、キャロル】
「はい。どうしましたか、ジェームズ」
【……ラウール、かなりキンケツみたいでな。ジャケットとゲンテイのコーヒーをカいたいらしんだが、イロイロとエンリョしているのか……タブン、ガマンしている。せめて、コーヒーくらいはカってやってホしいのだが】
「そうなのですね。……そっか、そうですよね。最近は私のお買い物が多かったですものね。多分、コーヒー位は買えると思うのですけど……できれば、ジャケットも用意してあげたいですね」
【だけど、レザージャケットはソウトウおタカいみたいだぞ?】
「言われてみれば、確かに……。レザージャケットも一緒に買ってもらいましたけど、銀貨6枚くらいかかっていたような……」
ラウールがバイクを調達した際に、折角だからとキャロルの分も一緒にジャケットを揃えたのだが。バイカーズ用品は軒並み高級品だったことを、まざまざと思い出すキャロル。
まだまだ浸透率も低いバイクを乗り回せるなんて、それこそ陸軍の関係者か、新し物好きなタイプの貴族くらいなものだろう。そんな事情もあり、バイク用品を買いに来る客というのは、大抵はお金持ちの太客である。なので……店側もそれを承知で、強気な値段を吹っかけるのが常であった。
「……って、あっ! ジェームズ。私、いい事を思いつきました!」
【ウム?】
「ロゼッタ様って、競馬のレースに参加するために来ているのですよね?」
【そうみたいだな。バルドールシのタノみをウけて、ラウールがシカタなく、ショウカイしたみたいだが】
「……ロゼッタ様とレユールのオッズって、どのくらいでしょうか?」
【ナルホド。フツウ、シマウマでユウショウするなんて、ホカのヤツらはオモわないだろう。だから……レユールのオッズは、タカめにセッテイされるはずだな】
それでなくても、オルセコのニューイヤーレースは注目度も高いレースなのだと、バルドールも言っていた気がする。で、あれば……一攫千金も夢ではなさそうだ。そうして、メーニックで銀貨24枚を手にした経験も下敷きにして。キャロルとジェームズは大儲けの悪巧みを想像しては……ちょっぴり悪戯っぽく笑うのだった。




