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疾走せよ、ゼブラジャスパー(7)

 冬でも青々と茂る、農場の敷地内を悠々と。長閑な牧草地には場違いにも程がある、厳しい雰囲気の軍馬達が歩いている。どうやら、ロゼッタは農場の広大な敷地を間借りして、ここぞとばかりに馬術訓練に精を出すことにしたらしい。しかし……そんな()()()()も上々と、のびのびとした空気を満喫しているのは騎士団員達だけではなく。馬達もいつもより穏やかな訓練カリキュラムも相まって、広大なアッシュグリーンの牧草地に蹄を下ろすのが楽しいようだ。


「……この情景だけ見れば、平和そのものなんですけどねぇ……」

「えぇ、そうですね。でも……」

【クゥン(1トウだけ、ヘンなのがいるな)……】


 ロゼッタの愛馬・フレデリカがのんびりと飼葉をモグモグとやっている横で、ラウール達の視界を何度も横切る白黒の襲歩(ギャロップ)。やや目障りな影を追って、視線を動かせば……相性も抜群とばかりに、高笑いが止まらないロゼッタが、レユールを見事に乗り回している姿が目に入る。


「アァァァッーハッハッハッハッ! いいぞ、いいぞ! この疾走感! 周囲の視線を我が物とする、美しいストライプ! レユール! 我はお前をしかと気に入ったぞッ!」


 本格的な訓練も入っていないはずのシマウマ相手に、モンキー乗りも鮮やかに。彼女の視界に広がるは、褪せたグリーンに映える輝かしいまでのストライプ。そんな()()()()な風景をロゼッタも気に入ったのだろう。最後は華麗なクールベットまで決めて、終始ご満悦な様子だ。しかし……。


(やはり……レユールのスピードは異常ですね……。そもそも、シマウマってこんなに速く走れるものでしたっけ……?)


 シマウマ自体は意外と大きく、足も長いようだが……サラブレッドと比較すれば、走る事だけに特化しているようには見えない。大凡、サラブレッドの速度は50〜70km(キロメートル)/h(毎時)だったかと思うが。


(えぇと、シマウマは……と)


 生憎と野生動物の知識は持ち合わせていないため、図書館で動物図鑑を借りて持ち込んでみたものの……予想に反して、図鑑の「シマウマ」のページには、驚くべき記載が踊っているではないか。

 動物図鑑によると、シマウマの速度は約65km(キロメートル)/h(毎時)。サラブレッドにも引けを取らないばかりか、常々捕食者から逃げ回らなければならないため、持久力も優れるとされている。その上、厳しい自然環境で生活しているため、伝染病にも強い傾向があるが……。一方で、そんな願ったり叶ったりの()()を家禽化できなかったのは、気性の荒さが最大の原因だったと、図鑑は結んでいた。どうやら……どこぞのトーキーアニメでのやられ役は、ミスキャストもいいところだったようだ。


「……シマウマって、意外と速いのですね……。そこに馬慣れしているロゼッタ准将が乗っているとなれば、姦しさはさて置いて、レース最大級の番狂わせになりそうだな……」

「それにしても……シマウマさんって、本当に綺麗な動物なのですね。しかも、乗っているのが可愛い女の子であれば、レースの結果以上に注目度も抜群ですね」

「……ロゼッタ准将を手放しで可愛いと言えるのは、君が彼女の凶暴性を知らないからです。得意武器はアサルトライフルとされてはいますが……見た目に違わず彼女、かなりサディスティックな性格でしてね。捕虜に鞭を振るうのが、何よりも好きなのだとか。まぁ、そのサディズムはヴィクトワール様も含めて、騎士団の女傑達がこぞって持ち合わせている気質ですけれども。……基本的に男所帯の軍隊の中で、あれだけ()()()()()()()()のには、それ相応の理由があるんですよ」

「そ、そうなのですね……」


 黙ってドレスでも着込んでいれば、ビスクドールよろしく可愛い金髪碧眼の少女に見えるだろう。しかし、彼女が好むのはドレスではなく、マットブラックの仰々しい軍服。その足元にはハイヒールではなく、コンバットブーツが何よりも馴染む。吊り目がちで強気な眼差しと、それに引けを取らない強引な性格。予測不能、一触即発の豪快な暴挙の数々。そんな黒薔薇貴族様の暴走に……周囲の人間はただ、嵐が吹き荒ぶ様子を遠巻きに観測するしかないのである。

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