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クレセント・レディ(2)

(本当に付いてくるなんて……。これはホルムズ警部に、なんて説明すればいいんだろう……)


 こっそり早朝に出掛けようにも。交代で見張りを立てている彼女達の警備網を潜り抜ける知恵も度胸も、モーリスにはなく。結局、しっかりと捕縛されてしまったモーリスは、なすがままに出勤するものの……当然ながら、警察署は部外者がズカズカと乗り込んでいい場所ではない。ラウールがモーリスのフリをして出入りしていることもあるにはあったが、彼の場合と彼女達の場合は事情がそもそも根本的に異なる。

 ラウールがモーリスを装ってここに出入りするのは、()()()調()()()(それでも完全にアウトだと思われる)のためだが、ヴィクトワールの場合は興味本位の余興でしかない。その辺りをどう説明すれば、お帰りいただけるのか……いくら捻ろうとも、モーリスの頭にはうまい言葉が浮かんでこなかった。


「とりあえず、ここで待っていてください。……この先は関係者以外は立ち入り禁止です。いくら王宮の関係者と言えど、あなた達はここでは部外者なのですから。警察署は誰でも気軽に入り込める場所ではないんです」

「あら! その警察署の出資金はどこが賄っていると、お思いになって? 我らがロンバルディア王宮が諸費用を運用しているのですよ? それに……これでもこのヴィクトワール、ここロンバルディア中央署で1日所長も経験してございます。部外者ではありませんわ!」

「それとこれとは、話が違います! いいから、とにかく待っていてください。……もぅ、お願いですから、少しは僕のいう事を聞いてくださいよ……」


 最後は半ば懇願が入ったところで、強引に話を切り上げると……仕方なしにホルムズ警部の部屋に出向くモーリス。本当は例の連続殺人のことで話をしなければいけないはずなのだが、前段階の問題が山積みで、いよいよ頭が痛い。


「……し、失礼します、警部……」

「おぉ、モーリス。おはよう。……お前は相変わらず、不安そうな顔をしてからに。どうした? 何かあったのか?」

「え、えぇ……すみません。少々、警部にもご相談したいことがございまして。その、かくかくしかじか……」


 先日の()()があっても、いつも通りに接してくるホルムズの様子に安心しながら、仕方なしにヴィクトワール御一行の事を説明するモーリス。その上で、ホルムズからも是非お帰りいただくよう説得していただければとお願いしてみるが……何故か、ホルムズの方も変な方向に事情を捉えたらしい。俄かに興奮した様子で前のめりになっている姿勢を見る限り……どうやら、モーリスが期待しない方を快諾してくださったようだ。


「そ、それは本当か⁉︎ あのヴィクトワール様が助太刀くださると⁉︎」

「えっ? い、いや……僕としてはヴィクトワール様は部外者ですし、王宮にお帰りいただいた方がいいと思いまして……。いくら何でも、今回の捜査に加わって頂くわけには……」

「何を勿体ない事を言っておるのだ! それでなくても、例のクレセント・レディはかなりの強敵だろうという事で、メーニック警察も不安がっておる。駿腕の騎士様に作戦に加わっていただければ、これ以上ない程に心強いというもの。それで……ヴィクトワール様はどこにおいでなのだ?」

「……今、受付に待たせております……」

「うむ! だったら早速、私がお迎えに上がろう。いやぁ〜! こんな所でヴィクトワール様とご一緒できるとは、なんて光栄な事だろう⁉︎ ……後で娘にサインも頂かなければ」

(……どうして、こうなるんだ……?)


 自分を置き去りにしながら、周囲が望まぬ方向に鮮やかに結託していくのに、酷い目眩を覚えるモーリス。ここまで孤軍奮闘を余儀なくされるとは、思いもしなかった彼にとって……これからの数日間は、今までにない程にハードなものになりそうだ。

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