表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
437/823

疾走せよ、ゼブラジャスパー(1)

【フフフ〜、フフッフフ〜ン♪】

「ジェームズ、随分とご機嫌ですね……。そんなに、()()()()との逢引きが楽しみなのですか?」

【べ、ベツにそんなコトはないぞ? そもそも……ディアブロ、ヨメチガう!】

「ふぅ〜ん……?」


 まだまだ寒空が広がる日差しの中。バイクで向かうは、いつものオープンカフェ。キャロルを送り届けた後、ちょっとした約束があって、雪解けを待つばかりの草原を走るものの。どうも、当のジェームズはお気に入りのゴーフルよりも、()()のドーベルマンに会うのが楽しみで仕方ないらしい。本人は断固として否定をしているものの、先ほどからご機嫌な鼻歌が漏れている時点で、無駄な抵抗だとラウールは苦笑いしてしまう。


【それは、そうと……ラウールはケッキョク、ジャケットをシンチョウしソコねているな? アタラしいの、カわないのか?】

「まぁ、正直に言えば……ライダースジャケットも新調したかったのですけど。なかなかに、気に入るものが見つからないのです。それに、フルレザーでプロテクターもしっかり入っている物は、いい()()()もしますし」


 そんな弁明を頂きつつ……ジェームズはラウールがかなりの()()をしているのを、知っている。キャロルの衣装に、勉強道具に、そして怪盗紳士としての様式美(悪癖)でもある寄付に。憧れのツバメコーヒーの限定ブレンド(新年限定パッケージ)さえも諦めていた時点で、彼の金欠具合は相当だろう。


【そんなんだったら、コジインとやらへのキフをヤめればいいのに】

「そうは行きませんよ。今まであったものが途絶えたら、()()()()していることに勘付かれるかも知れないでしょう? それに……」

【それに……?】

「継父にできたことが、俺にはできないなんて、屈辱的にも程があります」

【……ラウールはホントウにイジっパりだな……】


 ラウールは怪盗紳士としての様式美を引き継ぐと同時に、先代(テオ)に対して並々ならぬライバル意識を燃やしているらしい。しかして、それは偏に()()なのだろうと見抜いては……これ以上、突っつくのも可哀想だとジェームズは口を閉じる。それでなくても、そろそろ中央街のメインストリートに差し掛かり始めている。……お喋りを止めるのにも、頃合いというものだ。


***

「あぁ、わざわざ来てもらって悪いな、ラウール君」

「いいえ? どうってこと、ありませんよ。しかし……如何しましたか? バルドールさんが俺に相談事だなんて」


 ラウールがいつものカフェに足を伸ばしたのは、何もジェームズのリクエストがあったからではない。ラウールを呼び出したのは、バルドール・グランタ……かつてメーニックの闘犬場で元チャンピオン・ディアブロのトレーナーをしていた男で、今はロンバルディア中央街を中心にドッグトレーナーを生業としている。しかし、ここ最近の事情も相まって……彼の方は恐らく暇ではないはずだが、相談事とはどんな内容なのだろう?


 昨今のペット飼育頭数が飛躍的に上がったロンバルディアでは、殊に犬の飼育にはかなり厳しいガイドラインが設けられている。常に口輪をしなければいけない訳ではないが、危険犬種もしっかりと定められており……それでなくても、犬にきちんと躾を施しているか否かで、行動範囲が格段に変わってくる。その上、犬が()()()()()()()の責任はキッチリ飼い主が負わなければならないため、万が一、傷害事件に発展でもすれば。一気に、()()()()()にもなりかねない。

 そんな事情に加えて、飼い犬には登録鑑札と注射済票も必須。片方がないだけでも罰金の対象になるため、犬と暮らす上での躾と手続きをするのは、()()()のマナーでもあった。


「犬の躾は中々に難しいと聞きますし……ディアブロを見れば、手腕は一目瞭然でしょう。きっと、お仕事もお忙しいのでは?」

「あぁ、お陰様でな。小型犬がブームとは言え……最近は大型犬も、ちらほら一般家庭でも見るようになったし。今の所、仕事は順調だよ」


 だとすれば、ラウールに相談なんて必要ないようにも思えるが。注文通りのゴーフルを()()()()と仲良く頂いている、ライムグリーンの瞳が美しい婿殿(ジェームズ)の頭を撫でながら……バルドールがため息混じりで相談事を呟き始めた。


「俺の知り合いに、サラブレッドの訓練士がいるんだが……どうも、変わり種の動物が()()()で入ったとかで、困ったことになっているらしい」

「変わり種の動物?」

「あぁ。ラウール君はシマウマ、って知っているか?」

「シマウマ……ですか? 南国・マーキオンとかのサバナにいる……白黒のアレでしょうか?」

「あぁ、それそれ。よく、トーキーアニメとかでライオンに虐められている奴な」


 その喩えはどうなのだろう。多分、あの手のアニメでシマウマが哀れな被害者になりがちなのは、モノクロフィルムでもしっかりと()()()からだと思うが……。

 それはさておき。馬は馬でも、サラブレッドの訓練場にシマウマとは。確かに、これは大いなる手違いではあるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ