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アンダルサイトのから騒ぎ(41)

「グリード様、これは一体……?」

「……かのベニトアイト(ジョナサン)と同じですよ。男性のカケラは自身の核石と近しい相手を取り込むことで、自在に化け物の力を使いこなせるようになります。そして……それを繰り返すことで、天空の来訪者(オリジン)へと少しずつ近づくことができるのです」


 目の前で言葉を失って荒れ狂うのは、浄化の彗星(プリフィケーション)が聞いて呆れるほどに、穢れに穢れきった黒竜(言論の混沌)。腐敗の味を占めた咆哮から青い炎を噴き出しながら、手当たり次第に白薔薇の夢の跡を焼き尽くし始めた。


「……こうなったら、こちらも同じ力を使うしかなさそうですか? クリムゾン……()()()は君にも見せたくありません。申し訳ありませんが、君はアンドレイ副団長を研究施設まで案内してやってください。……他の試験体達を()()させるのです」

「はい……分かりました。それでは……」

「えぇ。……また()()


 クリムゾンが走り去るのを見送って、こちらも本気を出さねばと腹を括るグリード。継父の残したジェムトフィアのチャームに輝く、1つの宝石を取り外すと……すぐに口に含めるようにと、左手にしっかりと握りしめる。


「……さて、と。俺が()()()()()で、こちら側になるのは初めてですが……クククク! ()()がてら、()()()の胸を借りるのも、悪くないですかね!」


 胸に望みを、心に願いを。幼かったその身に刻まれた、禍根の記憶を呼び起こして、尚……()()()()に相応しい姿へと変貌を遂げるグリード。その姿は、筋肉を膨張させた巨人の姿をアッサリと踏破して……紫に煌めく、美しい魔竜に退()()を遂げていた。


【……サァ、行キマスヨ……! ソノ首を今コソ、落トシテゴ覧ニ見セマショウ!】


 峻厳な爪は、手負の黒竜の首を易々と切り裂く。その紫の鱗は灼熱の炎さえ、寄せ付けぬ。自慢の長い尻尾で相手の腹を強か薙げば、ビシリと生えた棘が漆黒の鱗さえ容易く剥いでいく。

 2匹の怪物は力量こそ拮抗しているように見えるが、実際には紫の魔竜の動きは滑らかで隙もなく、黒い魔竜を圧倒し続けている。まだまだ、ややぎこちない部分はあるものの。その辺りは()()()()()、大目に見て欲しいと……グリードは自らの力を律しながら、入念に相手の様子を窺っていた。


【グリュリュリュリュ……グルルルァァァッ!】

【……下手ニ、命アル相手ヲ取リ込ムカラ、イケナイノデスヨ。血肉ヲ食ラッタカケラハ、核石ヘノ融和が格段ニ早マリマス。……ソレヲ知ラヌ訳デモ、ナカッタデショウニ】


 苗床、と彼が称して見せた試験体はまだまだ鉱石……核石そのものには成りきれていない、()()()を大いに含んでいた。その不純物……自分は生きていたという、自我そのものの抵抗力ごと喰らえば。禍根を負の感情として食い物にする核石は、ここぞとばかりに調()()()()

 そして、その延長上にあるのは超新星(スーパーノヴァ)。原初の彗星達も避ける事のできない、最終段階。新しい命の原料となるための究極の自己犠牲という、アンチエイジング(延命)にひたすら固執していた古代の王が最も望むべくもない未来でしかない。


【ハグッ……! ガハッ⁉︎】

【シカシ、貴方如キノ()()ニブランローゼ城ゴト吹キ飛バサレテハ、敵イマセン。デスノデ……俺ガシッカリト、ソノ身ヲ貰イ受ケテ進ゼマショウ!】


 ジャバヴォックの首に眠る()()を掘り出しては、いよいよ剣のように鋭い牙で食らいつく。ハーモナイズ……融合の彗星。自分自身も知らないはずの術で、()()()さえも失った相手を抱擁すると。最後の煌めき全てを、受け止める。


【フゥ……コンナモノデショウカネ? ……サテ】


 本当はこの()()()を食らうことは、極力避けたかったのだが。()()()()()()()()がこの先もあるのなら、気休めに縋る事も必要ないのかも知れない。そこまで思い至っては、覚悟を決めて小さなクリソベリルを口に放り込む紫の魔竜。あまり味わいたくもない、背徳の余韻を飲み下して……ようよう、いつもの姿に戻れたことに一安心、と言ったところか。


「あぁ、なんと言いますか……妙に体が()()ですねぇ……。さてさて。この()()()は頂いていきますし、あなたの()()もしっかりと弔って差し上げますよ……って、失礼。もう……あなたに俺の声は届きませんかね?」


 言論の混沌(ジャバヴォック)の首元から掘り出されたるは、世にも珍しいワンダー・サファイア。そんな核石(心臓)を首ごと刎ねられては、原初のカケラであろうとも命を繋ぐことはできない。

 そうして哀れな亡骸を一瞥すると、共にある事を望んだ相棒の元へと駆け出すグリード。今宵の舞台の出来は85点。今度は大嫌いなチームプレイの鍛錬も必要だと考えては……それも悪くないかと、いつも通りに口元を歪めていた。

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