アンダルサイトのから騒ぎ(25)
午後の講義も乗り切ったキャロルと合流し、早速現地調査に向かうラウールご一行。講義のシラバスでは1週間のうち、メクラディは休講日となっている。そんなメクラディをすぐ後に控えたマルディの今日であれば、心置きなく泊まりがけの調査も可能だと……夕刻も直前だと言うのに、ヴランティオの大通りをバイクでひた走る。
「そう言えば……」
「うん? どうましたか、キャロル」
「ヴランティオって、ロンバルディアの首都……なんですよね? それなのに、王様はロンバルディアの中央街に住んでいるのですよね……」
「あぁ、その事か。確かに、ヴランティオは首都として認識はされているけど……実質の首都は中央街が位置するミリュヴィラの方だろうね。まぁ、元々は王宮もヴランヴェルト城にあったのですけど。昔から、お隣の国が何かと血気盛んだったから。それで……確か、ブランネル21世の時代に、王宮を今の位置に移したと聞いたことがありますね」
「そうだったのですね。確かにお隣がシェルドゥラでは、王様も避難したくなるかも……」
「とは言え……その下地を作ったのは他でもない、紛れもなく身内だったみたいですけど」
【クゥン(ジェームズにはちょっと、ミミがイタい)……】
ヴランヴェルトはロンバルディアの片田舎と称されるように、ロンバルディア領の端に位置する旧王都である。雄大な景色が自慢のマリトアイネスを始め、今も昔も広大な穀倉地帯が広がっているが……その豊かさが災いしたのか、ブランネル7世の時代にヴランヴェルトは覇権争いによる内紛状態に陥った時期がある。そして、覇権争いに敗れたブランネル7世を追い出す格好で、一定の領土を与えたのがキッカケで出来上がったのが、シェルドゥラであった。最終的にはヴランヴェルト城を含む、王都一帯を手に入れたのは、彼の長子でもあったブランネル8世だったが……。
「ブランネル7世はヴランヴェルトの豊穣を口実に、国民に重税を課していたようです。しかし、税金がきちんと満足のいく形で還元されればいいのですけど……きっと、そうではなかったのでしょうね」
内紛の発端は、覇権争いとされてはいるが。実情はブランネル7世の悪政に対するクーデターとするのが、正しい見方だ。先王のブランネルが26世だという事を考えても、相当に昔の出来事ではあるものの。その後、ブランネル7世は独立宣言を経てシェルドゥラを建国したが、追放時点で高齢だった事もあり、世継ぎを残さずに薨去した。しかし、彼の恨みだけは健在なのか……シェルドゥラが常々、ロンバルディアに何かと挑発的な態度を取るのは、ブランネル7世の遺志なのかもしれない。
「と……言うわけで。首都にも関わらず、ヴランティオがロンバルディアの中心から外れているのには、元々はシェルドゥラも含む領内での中心地だったからであり、観光都市として台頭してきているとは言え……頑なに古くさい高級志向を前面に押し出しているのには、旧王都としての自覚のせいだと思いますよ」
無論、首都が国土の中心にあるべきという決まりはないが。国王のお膝元に中枢機関も一緒に移動するのは、ある種の摂理だろう。そうして端っこに取り残されたのが、今のヴランヴェルトの立地のあらましではあるが……そこは、かつての中心地のプライドというもの。特に、何故か急に退位した先王が居を構えているとあっては、ここぞとばかりに栄華を再現したくなるのも、無理はないのかも知れない。しかし、レジオン長の涙ぐましい努力を一蹴するかの如く、妙に「古くさい」の言い回しを強調しているのを聞くに……ラウールはその残り香さえも気に入らない様子。
そんな国政にまつわる閑話を交えつつ、どこもかしこも気取った空気の通りを颯爽と走り去れば。その先一帯に広がるのは、見事な雪化粧を施し、夕陽色に美しく染まった田園風景だった。




