アンダルサイトのから騒ぎ(24)
「うむ、話自体はヴィクトワールからも聞いちょるよ。それにしても、こうなると……ここは仕方ないの。彼奴に暴れてもらうしかないかのぅ?」
キャロルの送迎の足で、ムッシュを尋ねては……アンダルサイトの捜索以上に、優先するべき事案が発生していることを報告するラウール。
キャロル探しのついでに、甘ったるい魔法を提供している酒場を発見した……表向きはそんなことになっているが。その酒場で繰り広げられていたのは、宝石人形達を使った非常に悪趣味なフェティッシュショーであったのだ。カケラの立場からも、男性としての立場からも……そちらのケはあまりないラウールにしてみれば、その趣向は吐き気を催す嫌悪感に満ちていた。
「えぇ、承知しておりますよ。例の落ちこぼれの存在は、ロンバルディアにとっても目障りな相手でしょう。それでなくても、俺としてもたっぷりと仕返しが必要だと思いますしね……!」
「およ?」
そんな悪心を紛らわす勢いで、ラウールは彼らの出来心に大変ご立腹の様子。余程、屈辱的な事を思い出したと見えて……鼻筋に深い皺を刻んでは、ギリリと歯を鳴らしている。
【……ラウール、オちツけ。ジェームズがあれこれイえたタチバではないが……ユビワドロボウと、ホウセキニンギョウのケンはベツのモンダイだ】
「指輪泥棒? はて……一体、何のことじゃろな〜?」
「……爺様に話すべき事ではありません。とにかく……アンダルサイトの件とは別に、彼らの足取りも追えばいいですか?」
「あっ、ラウちゃんのケチ! せ〜っかく、依頼料も色を付けてあげようと思ってたのに。教えてくれないんじゃったら、余もケチになっちゃうぞ」
「……」
ここで依頼料なんか要りませんと、突っぱねられたら、どんなに気分もいいだろうか。しかし、今のラウールは何かと物入りの状況である。キャロルが奪われたお勉強道具一式も揃え直してやらねばならないし、彼女の衣装を用意する予定もある。何より、常に恋焦がれて止まないクロツバメ缶の新作ブレンド(新年限定パッケージ)が発売されているとなれば……是非、この機会に買い込んでおきたい。
ラウールは自他共に認める、重度のカフェイン中毒者である。継父はアディショナルの後遺症を和らげるために、アルコールを頼っていたようだが……ラウールの精神安定剤は、子供の頃からコーヒーと決まっていた。それは継父が気取って嗜んでいた紅茶に対する拒絶反応の結果でもあり、正直なところ……過剰なまでの反骨精神が生み出した、背伸びの態度に他ならない。
そんな変な意味でもコーヒー愛好家のラウールを魅了し続けてやまないのは、気まぐれな寄付の返礼品であったツバメブランドのオーガニックレーベル。徹底した品質管理と生産体制による、ハンドピックのスペシャリティレーベルは贅沢品のコーヒーの中でも、お値段も格段に飛び抜けてはいるものの。程よい酸味と、円熟した甘美で華やかなフレーバーの虜になる者も少なくない。しかも、限定ブレンドはより玄人好みを意識しているのか……他のブランドレーベルではまず味わえない、個性的かつ独創的な風味で、お高い代金に見合うだけの満足度を易々と叩き出す。
(うぐ……! なんて、屈辱的な……! し、しかし……)
結局、身を焦がすカフェインの呪縛には抗えず。意味深な敗北感に打ちのめされながら、個人的感傷と引き換えに報酬の上乗せを雇い主から引き出しては……これだから雇われの身は切ないのだと、前例を作った先代の紅茶紳士が尚も恨めしい。




