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アンダルサイトのから騒ぎ(18)

(どうして? 待っていてくださいって、言ったのに……)


 この屋敷にも大勢の仲間がいる。ジョーイの言葉に嘘はなかったらしく、屋敷の至る所で見張りが屯していた。そんな出歩くにはあまりに宜しくない状況も探り出しては、同じ階の隅にあるトイレの窓から脱出できそう……しかも抜かりなく、この部屋のバルコニーからこっそり移動可能だということも、リサーチしてきたのに。


(どうしましょう……もし、あの人数で廊下に出たら、すぐに見つかってしまいます……)


 もしかしたら彼女達の避難先はこちらかも……と、1度バルコニーにも出てみるが。まずまず、彼女達の姿は影も形もない。そうして自分を除け者にしたかのような、空っぽのスタート地点の薄情さにガクリと肩を落とすキャロル。それでもまだ()()()()かも知れないと、置き去りになったままのダレスバッグをゴソゴソと探っては、何かと心配性らしい店主が底に忍ばせてくれておいた、少しばかり物騒なお供を抜き取ってみる。しかし……。


(ゔ……私、こんなの使ったことはないかも……。えぇと……)


 キャロルの掌の上に無駄な主張をすることもなく、すっぽりと収まっているのは小型の拳銃。しかし、いくら見た目は可愛らしくても、これが暗殺用の拳銃だとラウールが言っていたのも思い出しては……物騒なご用件に、ちょっと身震いする。それでも無理矢理にでも勇気を捻出するために、まずは気概だけでもと……拳銃をそれっぽく構えてみるものの。


「ちょ、ちょっと! 何するのよッ!」

「キャッ⁉︎」


 手元の拳銃をあれやこれやと観察しているタイミングを見計らったように、ドアの外から聞き覚えのある声が響いてくるものだから、思わずその場でちょっと飛び上がってしまう。そうして辺りを見渡しても、自分以外の誰かがいる様子はないし……それに、今の声は間違いなくヴィオレッタのものだ。だとすると……。


(あぁ、遅かったかも……。ヴィオレッタ様達は見つかってしまったのかしら……)


 そうなれば、きっとこの部屋にも彼らが戻ってくるだろうと考えては、咄嗟に部屋にあったクローゼットの中に身を隠すキャロル。避難先が()()()()()()()である以上、簡単に見つかってしまうかもしれないけれど。でも、その時は……。


(あぁぁぁぁ……どうしよう! こんな事なら、ラウールさんに拳銃の使い方も教わっておくんだった……!)


 手元の武器を頼ろうにも、引き金を引けばいい事くらいしか、キャロルには銃の知識はない。手には拳銃と一緒に汗も握りながら、キャロルがクローゼットの中で息を潜めていると……予想通り、ジョーイを含む()()()()()()楽しげに(威勢よく)やってくる。しかし、先ほどキャロルが経路を確認するついでに開けた窓に気づくと、舌打ちをするお仲間の1人。どうやら彼らは……まんまとキャロルが単独でバルコニーから逃げ出したと、勘違いしたらしい。


「おい! 1番の目玉商品が逃げ出したぞ! 多分、1人はバルコニーから外に出てる!」

「そいつは、まずいな……。ここからちょっと行ったら、すぐに大通りだぜ?」

「うぐ……! と、とにかく! 他の4人を馬車に詰め込んで、シャペルリ様の所へ連れて行くんだ!」


 そのついでに、赤毛を探すぞ……と、()()()()も鮮やかに。キャロルのバッグを引ったくって、ジョーイ達が嵐のように部屋から出ていく。そうして、しばらく物音が聞こえなくなるまでキャロルは息を潜めていたが……。ようやく静けさが戻ってきても、クローゼットからしばらく出ることもできずに、小さく蹲ってはさめざめと涙を流していた。


(どうしよう……! みんな……連れていかれちゃった……!)


 やっぱり最初から一緒に移動した方がよかったのかな。自分の()()()()を後悔しては、こんな時にかの大泥棒(グリード)だったらどうするだろうかと必死に考える。

 しかし、考えれば考えるほど……名案どころか、絶望的な状況しか浮かんでこなくて。今度は1人きりになってしまったという不安の反面、静けさと一緒に訪れる確かな安堵が、狭くて暗いクローゼットの中を安らかに満たし始めた。その妙な気分と状況に、却って焦りを覚えつつ。やっぱり、そこはちょっぴり強気な大泥棒の相棒である。

 そうして、()()()()ベルジアンヘア(キャロル)は気分を鮮やかに切り替えて、くしくしと涙を拭っては……もうひと頑張りと、クローゼットを飛び出した。

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