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アンダルサイトのから騒ぎ(11)

 馬車を呼んでもらったまではよかった。そして結局、自分の方がヴィオレッタ嬢のお屋敷にお邪魔することで、ラウールの不興を抑える事にしたのは、間違っていなかったと思う。だけど……。


(この状況は、どうすればいいのかしら……?)


 降りろと言われて降りた先は、ブキャナン家の屋敷でもなければ、ラウールの待つ店でもなく。キャロルが馬車に身を任せて辿り着いたのは、どこかおどろおどろしい雰囲気が残る古びた洋館だった。そして馬車から降りた瞬間に、後ろ手に縛られ……そんな洋館の1室で、他の少女達と一緒に部屋に転がされている次第である。


「えっと、ヴィオレッタ様……これも何かの演出でしょうか?」

「そんな訳ないでしょ! というか……どうして、私がこんな汚い床に座らなければならないのかしら!」


 この場で気にするべきところは、床の汚れ具合ではない。しかしながら、ヴィオレッタにも()()()()に心当たりがないとすれば。これは冗談抜きで誘拐された、という扱いになるのだろう。見れば、他の少女達はすっかり怯えた様子で、冬の寒さだけではない震えにも耐えようと、身を寄せ合っている。


「あれ……? 1人、足りない気がしますけど……。確か、レイラさんでしたっけ? 彼女はどうしたのかしら?」

「あら。言われてみれば、確かに……レイラがいませんね。あなた達、彼女がどこに行ったか、知りませんこと?」

「存じませんわ……」

「私も。ただ……」

「ただ……?」


 一緒に残された他の3人の少女は、レイラの行き先について思い当たる節があるらしい。おそらく、ヴィオレッタの前で白状するのが憚られるのだろう。3人でさも困ったようにしばらく顔を見合わせた後、昼休みにレイラと一緒にキャロルに話しかけてきたアマンダがいよいよ、口を開く。


「……レイラは、ヴィオレッタ様の振る舞いに疲れていたようでして……。折角、鑑定士の勉強ができると喜んでいたのに、ヴィオレッタ様の気まぐれでこのまま振り回されれば、チャンスもなくなってしまうと……漏らしていました」

「なんですって⁉︎ 私は別に、あなた達を振り回す気はなくてよ⁉︎」


 本人に自覚はなくても、彼女の振る舞いは周囲を大ぶりで巻き込んでは、掻き乱している。彼女の振る舞いのどこをどう見れば「振り回す気はない」と言えたものかは、分からないが。……トラブルメーカーと言うものは、概ね無自覚なものらしい。


「あ、ヴィオレッタ様、落ち着いて……。とにかく、ここはお話の続きを聞きましょう? ……アマンダさん、お話の続きをお願いできますか?」

「はい……。鑑定士の資格を取れたら、お仕事をしたいとも言っていましたが、それとは別に……レイラにはどうも、お金が必要なご用事があったみたいで……」

「えぇ、そうよ。私にはどうしても、お金が必要なの。ですから……フフフ。ブキャナン家のお嬢様と、貴族様の婚約者さんを利用する事にしたわ」

「レ、レイラ! これは、どういう事ですの⁉︎ というか……あら? そちらは……ジョーイじゃありませんの?」


 縛られているというのに、威勢も元気も有り余っているヴィオレッタが、レイラに噛み付かんばかりの勢いで立ち上がって捲し立てたはいいものの。レイラの背後から、やっぱり見覚えのある登場人物が姿を現したものだから……呆気に取られた様子で、ドスンと重めの腰を再び着地させる。


「いや〜……キャロルちゃん、だったよね。僕……本当にもう、君に夢中なんだ。赤毛は高く売れるって言うし、それだけ美人だったら、側に置いておくのもいいし。しかも……その指輪、とっても高そうだよね。それ、婚約者とやらに貰ったの?」

「……えぇ、そうです。折角のお誘いですけれど、私には一緒にいることをお約束した相手がいるのです。これ以上は放っておいてくれませんか」

「へぇ……そこで強気に出るか。なるほどなぁ。ますます、いいねぇ……」


 赤毛は高く売れる……その言葉に、彼らの目的をしかと悟るキャロル。身代金目的の誘拐はリスクが高い割には、成功率が非常に低い。しかも、彼らの場合は既にこちら側からすれば「顔見知り」の状態である。例え、身代金を無事受け取れたとしても……逃げられる可能性は非常に低いだろう。だとすれば……。


「はぁぁぁ……未だにこんな馬鹿げた事をする人達がいるなんて、思いもしませんでした……。人身売買をしてみたところで、売り物が()()()()()だったら……クライアントもさぞ、お困りになるでしょうに」

「は? キャロルちゃん、それ……どういう意味? 言っておくけど、僕達は2人だけじゃないよ。この屋敷にも仲間が大勢いるし……何より、バックにはあのペトルチオ様がいるんだぞ!」


 どうだ、凄いだろう……と胸を張られてみたところで、キャロルにはその見得が却って間抜けに見える。

 そもそも、ペトルチオなる人物が誰なのかさえ、彼女は知らぬのだ。ジョーイの語り口からして、どこぞのギャングの親玉か何かだろうが……正直なところ、キャロルはその程度の脅しは受け流せる程に、拉致に関しても素人ではなかった。


(私……なんだか、閉じ込められる事が多い気がする……。コーネの刑務所に、ブランローゼのお城に……あっ、病室に閉じ込められた事もあった気が……)


 そうして、あまりにバラエティ豊かすぎる実体験に更にもう1種類(今回の件が)追加となれば。……いよいよ、キャロルは頭も痛い。とは言え、ここは大人しく彼らのお話も聞いた方がいいだろうか。おそらく、自分達を「商品」として仕入れた以上、その商材を()()にはしないように思う。脱出も地道に確実に。そんな事を考えながら、まずは機会と糸口を掴もうと……キャロルは辛抱強く、彼らとの対話を試みる。

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