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クリスマスキャロルはエグマリヌの船上にて(27)

 秘密の通路を知っているのは、どうやら()()()()のメンバーだけではないらしい。急いで避難経路を駆け抜けた先で鉢合わせたのは、プールに詰め込まれたテロリストに驚きを隠せない様子の2人のレディ。彼女達のあまりに整いすぎた(作られた)姿に……おそらく()()だろうと察知しては、向こう(王家)側の手札の潤沢さを見せつけられるようで、ユアンはますます気鬱になってしまう。


「おや……こんな所で奇遇だわね、ユアン様」

「そうだね。あぁ、そう言えば。貴方のお名前はお伺いしていなかった気がするな。そちらのお嬢さんも含めて、お伺いしても?」

「えぇ、構わないわ。私はヴェーラ。で、こっちの彼女はキャロル。一応、言っておくけど。私はともかく、この子に手を出したら……」

「あぁ、ご心配なく。僕はそんなつもりでここに来た訳じゃありません。ただ……約束の時間があったもので、こうして抜け出してきただけなんだ」


 そう、ただ……約束を守るためだけ。それだけだったはずなのに、流石にホワイトムッシュ……ブランネル大公が乗り合わせるとなれば、護衛の顔ぶれも錚々たるもの。難敵ばかりの中で隠し球を1つ使ってしまった上に、目の前の彼女達にも()()()は通用しないだろうと、ユアンは改めて腹を括る。特にヴェーラと名乗った、水色の鋭い視線を寄越す美女は成熟した見た目からしても……かなりの年月を過ごしてきた、()()()だろう。


 カケラの成長速度は、人間のそれとは大幅に異なる。そもそも、彼らは「永遠を過ごすために適した姿」を留めるように作られているため、成人までの成熟過程は人間のそれとはさしたる差はないが、成人後から壮年期(働き盛り)の期間が非常に長いのが特徴だ。老化のスピード自体は、各々の生活様式(ストレス)にも大きく左右されるものの、それ以前に、大抵のカケラは成熟する前に砕け散ってしまうのが常でもある。故に、見た目もきちんと成熟しているカケラというのは、生き延びられるだけの性質量を持つと同時に、核石の質量に比例して増幅される情緒不安定をも克服した存在でもあった。


(彼女は見たところ、30代後半に見える……。きっと、100年モノレベルの()()()()()()に違いない。だとすると……)


 彼女の存在理由は純粋な(余興の)()()()()ではないだろう。

 そこまで逡巡して、ユアンは深々とため息をつく。自身もカケラとは言え……片割れと性質量をきっちり折半している以上、おそらく彼女の性質量にも及ばないだろう。それでも、ユアンが()()()()()を捨てることができないのは……偏に、片割れとの約束の結果だった。


「……すみません、レディ・ヴェーラ。僕にはどうしても、果たさなければならない約束があるのです。ですから……ここは見逃してもらえないでしょうか?」

「見逃す、だって? いや、そもそも……私はあなたが()()()()()()()って事しか、知らないんだけど」


 そんな相手に、交渉もへったくれもないわね。出来る限り穏便に事を運ぼうとしているユアンの思惑を見透かして、更に警戒心を上乗せしたヴェーラが交渉決裂の意思をはっきりと示す。その横で、キャロルがやや不安そうな顔をしているものの。おそらく、彼女はカケラとしては幼い方なのだろう。まるで先輩の意思を尊重するかのように、口を挟むこともなく大人しく状況を窺っている。


「しかし……なるほど、ねぇ。もしかしてユアン様も()()()()の存在だったのかしら?」

「えぇ、そうですよ。多分、あなた程ではないでしょうけど。僕はオルロフトロッター……ちょっとした()()()()()()()を胸に抱く、執行人(エクスキューショナー)の一員です。今回は()()()()()のご命令で、ギブス・ノアルローゼ様と……アウーガ島の()()について、観測に来ていたのですけど」

「ふぅん……そう。で? その王様は……王は王でも、魔王様で合っているかしら?」

「いいえ? 彼は極々普通の……非常に良心的な精神の持ち主ですよ。何も……あなたが()()()()()()()()彼のように、対象の(核石)まで持ってこいとは言いません」


 そうは言われても、ユアンの告白を鵜呑みにできる程、ヴェーラは純真ではない。それでなくても、オルロフトロッターの暗喩で導き出される彼の正体が非常に悍しい事を嗅ぎ取っては、何がなんでも彼を先に行かせるわけにはいかないと臨戦態勢をとる。


(オルロフ……そのコードから考えられる核石はただ1つ。黒い石だろう事は、予想できていたけど……まさか、()()()だったとはねぇ……)


 この世界には、持っているだけで「不幸をもたらす」とされる曰く付きの宝石がいくつか存在する。例えば、今やキャロルの核石として馴染んでいるサラスヴァティ(呪いのサファイア)も、その1つだ。彼女の場合は複数核を持つ上に、隣に()()()()()利かせているクリムゾンが鎮座しているため、そこまで顕著な被害は出ていない。もしかしたら、侵食度合いによっては、サラスヴァティも本領を発揮することもあるかも知れないが……そもそも、キャロルの性質量の全てを掌握しているわけではない時点で、()()()()()()可能性は低いだろう。

 しかし、一方で……キャロルとヴェーラを見据えるユアンの瞳は、深淵の闇を思わせる完璧な漆黒。彼が同類だと知れては、瞳の色から核石はオニキスだろうと、ヴェーラも考えていたが。その考えはどこまでも甘かったと言わざるを得ない。

 彼の核石はおそらく……まさに呪いの宝石の1つ、オルロフ・ブラックダイヤモンド。最高硬度を持つ至高の宝石・ダイヤモンドであり、中でもレアストーン中のレアストーンを核石に持つ時点で……ユアンが()()()()()の中でも、かなりの切り札であろう事は明白だった。

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