クリスマスキャロルはエグマリヌの船上にて(26)
「ソーニャ、しっかり! ソーニャ!」
「う、う〜ん……。その声は……ダーリン?」
顔だけではなく、声までピタリと同じモーリスとラウールとを見分けられるのだから、彼女はそこまで重症ではないだろう。そうして、気絶していただけのソーニャが目覚めれば。安心すると同時に、旦那様の方は途端に気も抜けてしまったらしい。ソーニャの無事を確かめたところで、いよいよ、自分の情けなさと不甲斐なさとを泣きながら詫びるモーリス。
「まぁ、ダーリン……こんな所でメソメソしていたら、いけませんわ。ほら、しっかりして!」
「う、うん……ごめんよ、ソーニャ。僕が頼りないばっかりに、危ない目に遭わせて……」
「もぅ……私ならこの通り、大丈夫ですわ。それにしても……ウフフ。ダーリンがそんなに心配してくれるなんて。私、とっても幸せよ?」
「ソーニャ……!」
そこまで言い合ってヒシと抱き合うのだから、お熱い事、お熱い事。そんな彼らをジットリと見つめながら、仕方なしにジェームズが彼らの緊張感を戻しにかかるが。……彼らは常々、この調子なのだろうかと考えると、愛犬の方はかなり気が重い。
【……イマはイチャついているバアイじゃないだろう。ホカのモノもブジか、タシかめないと】
「あっ、そうだよね。ごめんごめん。えっと……って! こんな所に転がっているのは、白髭様じゃないか! わ、わ、わ……どうしようッ⁉︎」
「ダーリン、落ち着いて。このご様子ですと……大丈夫ですわ。息はきちんとありますし、心拍数も正常です。きっとお薬がよく効いて、夢を見ていらっしゃるのでしょう。……まぁ、夢の見心地までは保証されませんけど」
そのセリフに、シークハウンドの予感が正しかった事をしかと悟る、モーリスとジェームズ。そんな中、やはり催眠術には引っかからなかったソーニャによると、この状況は一緒にいたはずのオペラ歌手・ユアンが持っていた隠し球が発動した結果らしい。
「あのご様子ですと、ユアン様は私達と同じカケラだと思われます。漆黒の瞳から察するに……中身はオニキスでしょうか?」
「オニキスって言われても、なぁ……。僕にはそれがどんな石かは、さっぱり分からないよ……」
【オニキスはシッコクのホウセキとして、よくミるイシみたいだが……クワしくはラウールにキかないと、ワからないか。イズレにしても、イマはユアンとやらのショウタイよりも、ユクエをオうホウがサキだ。タシかヤツは……ノアルローゼがテハイしたカシュだったな】
「そうでしたわね。だとすると……」
【……イきサキはソウダシツ、だろうな。やれやれ。また、ギャクモドりか……】
最重要人物にもなりかねないブランネルを無防備に転がしておくのは、非常に宜しくない。そんな訳で、当初の役割通りにソーニャがその場に残ると同時に、モーリスも念のため一緒にいることにしたらしい。しかし……。
(まぁ、そのホウがジェームズもキラクだが。……ナンだか、モーリスがいるとカエってシンパイだ……)
これ以上のお邪魔は野暮だろうと、仕方なしに単身操舵室へ走り始めるジェームズだったが……2人いると心強いどころか、不安要素が乗算されるのだからタチが悪い。They begin to act like and look like each other……似たもの夫婦、一緒になれば自ずと互いに似てくるとは、よく言うが。この場合はモーリスがソーニャに影響されている気がして、思わずタンカラーを顰めずにはいられないジェームズだった。




