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クリスマスキャロルはエグマリヌの船上にて(15)

 ジェームズの話から、ヴィクトワールはそこまで心配しなくてもいいだろうか。彼女の()()()ぶりにはいよいよ、呆れるしかないのだが……急いで来た道を引き返しては、階段を駆け下りるのも煩わしいと別の意味でも焦ってしまうラウール 。

 乗組員室は各フロアの後方船尾側にあり、避難経路も確保されているものの、増設部分でもある上層客室フロアには避難口の設計はされていない。それは暗に、乗客よりも乗組員の安全の確保を優先しているようにも見えるが……そもそも、この豪華客船(優雅な猫)(の皮を被った戦艦(猛獣))がマティウスの()()()()()()()()()()に選ばれた理由に、ギブスの奸計が噛んでいるとすれば。その設計は、当然の部屋割りでもあるのだろう。


(……おそらく、ギブスはラディノ将軍解放の計画に乗っかる形で……ヴィクトワール様の始末と、重要人物の解放を目論んでいるのでしょう)


 アウーガ島に収監されているのは、何も凶悪なテロリストだけではない。危険な思想を持つ政治犯も収監対象であり、武力による恐怖政治を宣言して憚らなかった、かつてのロンバルディア陸軍中将・スピリントも服役中だったはずだ。彼も最初はロンバルディア国内の収容所で経過観察下に置かれていたが……更生不可と判断されてからは、脱獄不能と噂されるアウーガ島に移されたと聞く。

 それは当時、19歳だったラウールにとってはあまり馴染みたくもないニュースだった一方で、彼の護送にはヴィクトワールの思惑が幅を利かせているのではないかと、軍部内でもちょっとした()になっていたことだけは鮮明に記憶にも残っていた。そして除隊と将官階級剥奪を理由に、スピリントのファミリーネームは公表されてもいないが……当然ながら中将の地位にあった時点で、彼がノアルローゼの息がかかった縁者だということは、推して知るべき事実だろう。


(ギブスはヴィクトワール様を()()()、実力派のスピリントを()()()()()()事で、騎士団の覇権をノアルローゼに戻そうとしているのでしょう。だからこそ、舞台に船上を選んだ……と)


 その予想が合っているかどうかは、それこそご本人様と答え合わせをしなければ判断しかねるが。船と乗組員は彼が手配しているらしい時点で、予想は大きく外れていないように思える。これがきっと()()()()だったなら、事情も大幅に異なるのだろう。

 ヴィクトワールは騎士団の最高指揮官とは言え、本人の性能はどちらかと言えば陸軍寄りだ。地上戦や白兵戦は得意も得意だし、地上の軍部ネットワークも熟知している。そんな鋼鉄の騎士団長が抵抗した挙句に一声でも鳴いて、増援でも寄越されたら、計画も頓挫してしまうに違いない。

 そこで船上という、ある意味で孤立無援のステージを選ぶことで、ギブスは海軍を持たないロンバルディア騎士団の出番を封じ……延いては、海戦経験のないヴィクトワールの弱体化も狙うつもりだったのだろう。更に一度出港してしまえば、海という無限の証拠品の遺棄先(墓場)まで揃っている。しかし……。


(本当に誤算続きでご愁傷様、と言うべきですか? クククク……あの女傑が、その程度で弱体化するはずもないでしょうに)


 いくら船の上とは言え、水中でもなければ、息ができないわけでもない。地に足が付いていれば、それはある意味で陸上と何ら変わりはないだろう。もちろん、軽微な揺れに船上独特の浮遊感はあるだろうが……見張りを張り倒して、船長を逆に脅している時点で彼女には船酔いの心配もいらなさそうだ。なので、この場合に想定するべき最悪のシナリオは……。


(マティウスを盾にされて、ヴィクトワール様が屈すること……でしょうか。その暁に、ラディノとスピリントを解放された日には、戦争に逆戻りしかねません)


 軍需産業は当然ながら、商品が活躍できる舞台(戦争)がなければ儲けは出ない。今はそれこそ、マティウスと()()()()ことで()()と糊口を凌いではいるが……騎士団長の座も奪われ、華々しい経歴を披露する場もないノアルローゼにとっては、非常に世知辛いご時世だろう。しかも、馬鹿げていることに、現国王には仮想敵を作りたがる性質があり、ノアルローゼの提案に乗ってしまう可能性も捨て切れない。


(あ〜ぁ、本当に……ホリデーシーズンが見事に台無しではないですか。まさか、クリスマスをジャックされた船上で迎える羽目になるなんて。聖夜なんて、祝うもんじゃないですね……)


 やっぱり、今年は似合わない事をした(リースを飾った)せいだろうか。そんな事をグルグルと考えながらも、目的地(振り出し)のドアが見えてくる。相当の距離を自慢の俊足で走り抜けること、約5分。しかし……ようやく辿り着いたドアの先には残りの国王一家はいても、肝心のマティウスとギブスの姿は既になかった。

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