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スペクトル急行の旅(7)

 調べ事も済んで、ある程度の話し合いを進めていると……昼時と同じように、制服姿の添乗員が夕食の合図を告げにやってくる。車内でできることと言えば、景色を眺めることに、お喋りとボードゲーム程度。そんな状況に流石のラウールも退屈しかけていたので、今回ばかりは気晴らしに食堂車に移動するのも悪くないと思い始めていたが……食堂車の様子が昼間と様変わりしているのに、大いに困惑してしまう。昼食を摂った時には、窓際に整列したテーブルが並んでいたはずだったが。


(ゔ……俺、こういうスタイルの食事はとにかく苦手なんですけど……)


 パーティ会場顔負けの空間では、既に食前酒が振る舞われているらしく、立食形式の食事を摘みながらやや顔を赤らめて、既にご機嫌のお客様もちらほらいらっしゃるご様子。その状況に、先ほど感じたものとは別方向の嫌な予感を募らせるラウール。


「これはこれは……お久しぶりです、ブランネルお祖父様!」

「おぉ、久しぶり! 何じゃ、グスタフも来ておったのか⁉︎」

(あの顔は確か……!)


 そんな居心地の悪い空間で、選りに選って……いつぞやのアレキサンドライトの一件で、縁談を壊してやった相手とこんな場所で再会するなんて。仕方なしに、ラウールは息を潜めてその場を離れようとするものの……当然ながら、誰よりも溺愛する孫の存在を忘れるほど、ムッシュもボケてはいなかった。


「ラウール! 何をそんなところで、ボサッとしておるのじゃ! ほれ、お前もこっちに来なさい」

「い、いえ……俺は隅で参加させていただきます。爺様の歓談の邪魔をしても、いけないでしょうし……」

「まだ、そんな冷たいことを言っちゃうのかね? ……あぁ、グスタフ。紹介が遅くなって、すまんの。あの子が余の……」

「存じてますよ。ラウール・ジェムトフィア様、ですね。テオ第7王子の継子だと聞き及んでおりますが、確か……双子のお兄様はロンバルディア中央署にお務めの警部補さんでしたよね?」

「……えぇ、その通りです。とは言え……兄さんの方は俺と違って優秀なものですから、警部補になったのはコネではなく、実力ですよ」

「そうでしょうね。……ホルムズ警部もとても頼りになる方だと、褒めておいででした」


 何故、目の前の白薔薇貴族様が自分達の素性をそこまで知っているのだろう。怪盗として直接顔を突き合わせたことはないが、何となく……彼の探るような視線に、意地悪さを感じずにはいられない。


「何じゃ、グスタフは随分とラウールのことを知っておるのじゃな?」

「勿論ですよ、お祖父様。何せ……ヴィクトワール様も含めて、ご兄弟を王宮に迎え入れようと、必死だと聞きましたよ? 同じような境遇の私としては、そのお誘いに妬けてしまうというものです」

「あぁ、そういうつもりはないんじゃけどなぁ。ただ……お前の方には申し訳ないが、どうしても許諾できない事情があるのじゃ。本人に過失はないが……その辺は割り切ってくれんかの」

「承知していますよ。それに……私とて、現状に不満はありませんしね。ただ……半年前に憎たらしい怪盗に、花嫁を攫われた事以外は……!」


 そうして先ほどまでの柔和な顔を、今度は悔しそうに歪めるグスタフ。ラウールがその怪盗本人だという事までは知らないようだが……目の前でここまで悔しがられると、少々バツが悪い。


「あぁ、それも仕方ないじゃろ……。何せ、かのお嬢さんは無理やり連れてこられていたみたいじゃし。噂では、例の怪盗にお嬢様を連れ戻してくれるよう、頼んだ者がいたみたいじゃぞ?」


 公表していないにしても、そうも白々しく嘯くムッシュに、今度は肝を冷やすラウール。

 通称・ホワイトムッシュがかの怪盗への仲介役を紹介してくれるという()()は、()()()()()()()()にとっては周知の事実でもあり……勘がいい者であれば、その正体にもすぐに行き着くだろう。だからこそ、目の前のスレスレの綱渡りから目を逸らしたくなる。

 タダでさえ、若干の面倒事の匂いを嗅ぎ分けてしまったのに……これ以上の厄介事を抱え込むことになろうとは。今日という日はつくづく運に見放されたのだと、ラウールは目の前でご機嫌そうに笑顔を溢している張本人(ブランネル)を……内心でただひたすら呪っていた。

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