キュービックジルコニアの嘆き(17)
「相当の訳あり、ですね……アレは」
【ウム、タシかにミョウだな】
モホークを見送った後の、アンティークショップ。キャロルの言いつけけ通りにきちんと売り上げを稼いだものの、残された余韻に不自然な部分があったとなれば……愛犬と一緒に首を傾げるラウール。
「モホーク様も例の怪盗紳士が偽物だと知っているようですね。しかし、その事実を知っているのはごく一部……それこそ、本物の関係者のみのはずです」
ご本人様が書いていない以上、先週の新聞に踊っていた予告状は間違いなく偽物である。しかし一方で、予告状が偽物であるという事実は公表されていない。なので、関係者以外が今回のグリードが紛い物である事を知っているのは、些か不自然だ。
【そうだな。だけどさっきのヤツ、しっかりとニセモノってイっていた。それと……ナニやら、アシモトをキにしていたようだったが】
「そうですね。宝石よりも店の間取りに興味がある、と言った感じでしたか? ……俺がラッピングしている間も、しきりにショーケースの配置なんかを気にしているようでしたし、贈り物を探しにきただけのお客様には思えませんでしたねぇ……」
ラウールの手元を注視しながらも、モホークが何気なく店内をウロウロしては……自分の足でショーケースとショーケースの間の道幅をさり気なく数えていたのに、ラウールの方もしっかり気づいていた。いくら仄暗い店内とは言え、マチネが講演されている時間帯であれば、余程に目が悪くない限り、ショーケースにぶつからずに歩くことくらいはできるはずである。だとすると……。
「……暗いうちにご来店頂く予定があるのかもしれませんね。仕方ありません。今夜はモホーク様の身辺を探りに行ってきますか。あまりフェアなやり方ではありませんが……既にピンクダイヤモンドの情報の出所も収拾がつかない以上、別の手段で偽物を特定しないといけません。まぁ、本当に怪盗紳士様がこの店に現れるのかも、怪しいですけれど」
【そうだな。ところで、ラウール】
「はい?」
【さっきのヤツがイっていたアイテって……】
「……多分、そういう事でしょう。赤毛の女性はそう、多くはありません。俺自身もお会いした限りでは3人程しか知りませんし、ロンバルディア中を探した所で……いたとしても数十名がいいところだと思いますよ」
【だろうな。ジェームズはアカゲとイえば、キャロルくらいしかシらない】
だから、誰彼構わず優しくしないでくれと言っているのに。
昨日の事もあったので、努めて波風立てずに接客してみたものの。頻りに彼女の所在を気にしている時点で、贈り物の相手が誰であるかは、何となく見当もつく。だからこそ……ラウールは意地悪く貴重なパパラチア・サファイアを持ち出して、現実を見せ付けてみたのだが。
「……キャロルも、ピンクダイヤモンドも、誰にも渡しませんよ。それにパパラチア・サファイアもブルローゼ如きには絶対にお譲りしません。俺の宝石達に手を出そうなんて……クククク。そのツケはきっちりと、お支払い頂かねばなりませんね……?」
【……ラウール、アクマスマイルがダダモれだぞ。いいカゲン、ジェームズもミナれてきたが……しばらく、ワラうのはヤメたホウがいいとオモう】
「……」
悪魔スマイルなどと変な2つ名を付けられ、野望もそこそこに押し黙るラウール。相変わらず、彼の笑顔はただただ不気味なのを通り越しており……恐怖を呼び起こすその面立ちは、驚異的ですらあった。




