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マイカサンストーン・チワワ(11)

 昨日仕入れてきた宝石をカウンターに並べ、キャロルに鑑別(小テスト)をさせてみるラウール。自身はコーヒーを啜りながら、真剣な眼差しの彼女を見守りつつ……今日くらいは静かに過ごしたいと、切に願う。

 反面、例の麗しの青薔薇貴族様をやり込めてやりたいという気分も、あるにはあるのだが。何れにしても、それはラウールの気分の問題ではなく、彼も預かり知らぬ不確定要素。希望的観測が実現するか否かは、お客様の出方次第と言ったところか。


「……どうですか、キャロル。今回は少し難しめの物を用意してきたのだけど……ヒントは必要かな?」

「だ、大丈夫です。もうちょっと、インクルージョンを観察できれば……」

「そう。だったら、ごゆっくり。焦る必要はありませんから」


 今回のお題に用意したのは、天然のエメラルドとオイル処理を施したエンハンス済みのエメラルド。そして……最近ハーストが開発したらしい、模造エメラルドの3種類。この3種類に対して、的確に判断できれば試験を突破できる望みもあるだろうかとラウールは考える。


 宝石鑑定士資格は、国家資格ではない。ブランネルが創設したヴランヴェルトのアカデミアもその1つだが……あくまで民間の学習機関が独自に発行している、商業的な資格でしかないのだ。だが、宝石に一定の価値があり、流通も需要もそれなりにある以上、本物か偽物かは非常に重要な要素でもある。故に、真贋を見極められる宝石鑑定士の需要はそこそこあり、更に鑑定士自身も宝石を取り巻く華々しい世界の一端に触れられるため……白髭様曰く、ヴランヴェルトは大盛況も大盛況なのだそうだ。


(しかし……その授業料が俺の()()に化けているとなると、ちょっと寝覚も悪いんですけどね……)


 ただし、宝石鑑定士になるには膨大な講習の授業料に上乗せして、試験料まで必要となる。更には、もし開業できたとしても特殊機材の調達にもかなりの金額がかかったりと、なかなかにハードルも高い。更に、金を積めば無条件で認定される訳でもないため……一般的には宝石鑑定士は庶民にはなれない職業だと認識されるのが、常でもあった。

 そんな実情があるにも関わらず、ラウール自身は継父に手ほどきを受け、剰え()()()()()()のご厚意で宝石鑑定士になった挙句に、()()()()()()()()()ともなれば。知識や実力はあったとしても、少々気分が悪い。


【ラウール、ところで……】

「うん? どうしました、ジェームズ」

【ジェームズ、あのバイクでデかけてみたい。キョウのおサンポは、ちょっとトオくにイかないか?】

「あぁ、それも良いですね。でしたら……店仕舞いしたら、3人でちょっと遠出でもしましょうか。それこそ、例の新しいサントル・コメルシィアルでトレトゥール(惣菜)を調達して……」

【ジェームズ、ナマハムがタべたい】

「……生ハムは塩分が多すぎるので、許可しかねます。犬用のジャーキーを買ってあげますから、それで我慢してください」


 ラウールのケチ‼︎……と、ジェームズの罵声が飛んだところで、そんな余興もそこまでと言わんばかりに、何やら慌てふためいた様子のルセデスと……顔を合わせるのは初めてだが、どこかで見かけた気がする白い犬を抱いた女性が店に駆け込んでくる。両者の息の上がり方を見るに、相当の緊急事態のようだが。一体、今日は今日で何があったのだろうか?

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