スペクトル急行の旅(3)
「ここにいたのか。その……モーリス、何やら賑やかなお客さん達がお見えだぞ。あまり待たせてもいけないし、受付に出てくれんかね。それで、ついでに昼飯も食べてこい」
「それは構いませんが、僕に……お客様、ですか?」
「うむ……何というか。……これからは、私もモーリス様と呼んだ方がいいのかねぇ?」
「えっと……警部? 何がどうなって、そうなるのですか?」
「別に、大した意味はないが……まぁ、私の事は気にするな」
「は、はい……何だか、変な含みを感じますが……。と、とにかくお客様ですね。すみません、それでは先にお昼頂いてきます……」
「あぁ、ごゆっくりどうぞ」
しばらく平和な日々が続いたので、ここぞとばかりに帳簿の整理をしていると。いつになく、困惑した様子のホルムズ警部がモーリスを呼びにくる。常々、弟と質素に暮らしているモーリスに、表向きはそんな類の知り合いはいないはずだったが……普段はおっとりしがちなモーリスも、ホルムズ警部の妙な恐縮具合に嫌な予感を募らせる。それでも、折角のお客様をお待たせしてはいけないと、仕方なしに受付の方に出向くと……お客様達の姿を確認した瞬間に、弟の身に災難が降りかかった事を理解させられ、改めて身が縮むのが切ない。
「あぁ! 来た来た! もう! 何をボサッとしているのです、ロンバルディア様。ほらほら、これからお昼のお時間でしょう? でしたら、是非にご一緒していただけません事?」
「えぇ、確かにそろそろそんな時間ですけど……。しかし、ヴィクトワール様がどうして、こんな所にいらっしゃるのですか……?」
「まぁ、ロンバルディア様もお人が悪いんですから。このヴィクトワール、ブランネル公のご用命に従い、ロンバルディア様のお側仕えに馳せ参じましたわ! それにしても……まぁまぁ、しばらく見ないうちに、こんなにもお痩せになって! お労しい限りです……! でも、私達が来たからには、もう大丈夫ですよ! 王族にふさわしい待遇で、たっぷり甘やかして差し上げます故、しかとヴィクトワールスペシャルを堪能するのです!」
「……いえ、結構です。というか……すみません、こんな大勢の前でそんな事を暴露しないでください。そもそも、僕達は正式な王族ではありませんし、ヴィクトワール様にお世話を焼いていただけるような身分ではありませんから……そっとしておいてくれませんか……」
「まぁ! なんて、冷たい事を仰るのですか! それでなくても、ブランネル公が普段からどれだけ、あなた達をご心配召されていると思っているのです。とにかく行きますよ、ロンバルディア様!」
「……ロンバルディアの名前で僕達を呼ぶのは、本当にやめてください。……目立って仕方ありませんし……」
「あら。相変わらず、謙虚です事。でしたら……仕方ありませんね。今回に限り、モーリス様とお呼びいたします! 皆も良いですね!」
「はっ!」
「かしこまりました」
背後に控えていた、揃いのメイド服を着込んだ従者にキビキビを指示を出す……王宮最強の騎士団長・ヴィクトワール。見た目こそ、うら若き乙女に見えるが。……これで、モーリス達の継父の乳母でもあったというから、恐ろしい。そして、その父親は彼女の過保護ぶりから逃げ出したいが故に、王位継承権を放棄していたが。……ブランネル公側は孫の存在もひっくるめて、彼らとの繋がりを諦めてはいなかった。
結局、継父が切るに切れなかった負の人脈の余波をまともに受け、スゴスゴと連行されるモーリス。本来であれば、まずは弟のことを心配しなければいけない場面なのだろうが……その時ばかりは、流石のモーリスもそんな余裕を捻出できずにいた。




