マイカサンストーン・チワワ(5)
「こっちの真っ赤な宝石はルビーかしら? それで……キャッ! まさか……この輝きは、ダイヤモンド?」
「ちょ、ちょっと……ヴィヴィアン、落ち着いて! そんなにケースをベタベタ触っちゃ、いけないよ!」
どうやら、ルセデスは随分と彼女に入れ込んでいるらしい。彼女の方は本気ではないかも等と、言っていたクセに……昨日の今日でご本人様を店にご案内されるのだから、彼の焦りようは可哀想になるくらいだ。一方で、彼のお連れ様の上擦った雰囲気に少しばかり、眉根を下げて対応するラウール。必要以上にトーンが高いはしゃぎ具合に、無駄に疲れる気がすると、漏れるのはため息ばかりである。
「あぁ! 椅子にチワワちゃんを乗せないでください! 万が一粗相されたら、堪ったものではありません!」
「あら。別にいいじゃない。どうせこの椅子だって、そんなに高いものじゃないでしょ? 場合によっては弁償するわ」
「左様で? ですが……生憎と、そいつはアンティークのチェスターチェアでして。本体はマホガニーですし、座面はロンバルディア城玉座のウォールフラッグを利用したものです。それ一脚で金貨20枚ですけど……汚した場合、本当に弁償できるのですか?」
「まっさか〜! こんな小ちゃなお店に、そんな高いものがある訳ないじゃない! またまた〜……そんな嘘ついちゃって!」
「……嘘ではありませんよ。そいつの出所は紛れもなく、ロンバルディア城です。全く同じ椅子があちらには、あと5脚ありましたし……それこそロイヤル・コレクション名鑑等の雑誌にも載っていたと思いますから。もし宜しければ、後でご確認されてみては?」
「えっ……?」
「あ、そう言えば……そのお椅子、ブランネル様が懐かしそうに座っていましたね。なんでも、ラウールさんのお父様が気に入って、譲り受けていたとか……」
「はい……?」
父親じゃありません、継父です。
そんな訂正が入りつつ……キャロルの追加情報に明らかなお偉いさんの名前が飛び出したものだから、やや顔面蒼白になりながらサスキアちゃんを慌てて抱き上げるヴィヴィアン。彼女のあまりに滑稽な様子に、ルセデスが疲れたように詫びを入れ始めた。
「……すみません、予め彼女にこの店がどんな場所か説明しておかなくて……。とは言え、まさかブランネル公まで出入りしているなんて、私も予想だにしていませんでしたけど……」
「……あぁ、それは秘密にしておいてください。この店は曰くつきの宝石を取り扱う事も多いので、結構著名な貴族様方がいらっしゃる場所ではありますが……そんな事情もあり、本来は彼らが出入りしている事を公にするのはルール違反なのです。という事で、キャロル。無闇に他の方にお客様の情報を漏らすものではありません。次からは気をつけてください」
「そ、そうですね……ごめんなさい」
久しぶりに店主らしく、キャロルの軽口を諫めながら……ここは手っ取り早く、お目当てのお品物を見繕っていただいた方がいいかと、商談に入るラウール。キャロルにもしっかりと勉強してもらう意味でも、珍しくスタンダードな方法で接客を試みる。
「さて……と。メーニャン様のお話ですと、そちらのサスキアちゃんの首輪に付けるチャームをご所望でしたね。ご予算と、ご希望をお伺いしますよ。なお、参考までに申し上げておきますと……現在のダイヤモンドの相場は1カラットあたり、銀貨5枚程です。この店で一番安価な宝石は入り口横のショーケースに並んでいる中の、ペリドットやアクアマリン等になりますかね。そちらでしたら、銅貨15枚程度からご案内できます。それで……逆に最も高いものはカウンター横のケースに入っている、ピンクダイヤモンドです。一応、お値段も申し上げておきますと……こいつは金貨30枚ですね」
役職付きのモーリスのお給金でさえ、月額銀貨3枚ちょっと。それだって、同年代の男性の平均収入よりはかなり恵まれている方だろう。しかし……カウンター横で何気なく色っぽい輝きを放っているピンクダイヤモンドは、そんなモーリスのお給金の約500ヶ月分(金貨1枚は銀貨50枚)に相当する。いくら華々しい仕事をしているとは言え……ルセデスとヴィヴィアン2人分の給金を足したところで、到底手が届かない代物だろう。
わざわざ意地悪くそこまで案内してみて、彼らがどんな宝石を所望するのかに思いを巡らせるラウール。見栄っ張りらしいヴィヴィアンがありふれた石を希望するとも思えないが……さてさて。彼らはどんなオーダーを出してくるのだろう?




