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アメトリンの理想郷(11)

「ジェームズ、気分はどう?」

【ワルくない。カミナリ、ここだったらあまりキこえない】

「そっか。だけど……帰りは大丈夫かな?」

【……ジェームズ、できるカギり、ガンバル】


 目の前を進むラウールとイノセントの後ろで、既に帰り道の心配をしているキャロルとジェームズ。一晩しっかり休んで、いよいよ遺跡の調査に乗り出してみたはいいものの。ラウールご一行様は()()()()()に関して、完全に素人である。鉱物学のついでに地質学を齧った程度の知識では、とてもではないが遺跡の成り立ちを全て把握するのは不可能だ。しかも……。


「……トワイライトがお年寄りっぽいのは、腰痛だけじゃなかったんですね……。昨日の様子から、話はある程度お伺いできると思っていたんですけど。……まさか、変なところでボケも進んでいるとは」

【シカタなかろう。ハナしアイテもいなければ、シゲキもない。マイニチオナじセイカツをしていれば、ワスレっぽくなるのも、ムリはない】


 重要な事はしっかりと覚えている……と思いきや、彼は自身の心臓が今はどこで稼働しているのかを、忘れてしまっていた。持ち主ご本人様(トワイライト)に概要を聞ければ、調査もサクッと完了できると思っていたのに。持ち主様が既に遺跡の構造を忘れていたのは、とんだ計算違いだ。

 そんなどうしようもない現実に、ラウールは深々とため息をつきながらも、ここはイノセントと話ができればいいかと思い直す。()()の着手は……それこそ、トワイライトの返事次第だが。ご了承をいただけた場合、遺跡調査はこの場で無理にしなくてもいいだろう。


「ところで、イノセント。このまま青空城と一緒にトワイライトが空を放浪し続けるのを、あなたどう思いますか? 勝手な事を言っているのは、重々承知ですが……俺はこのままだと、()()()()不幸な気がします。いっそのこと、思い切って()()()()()のも手だと思うのですけど」

【……それがデキていたら、クロウはしない。キノウのハナシにもあったように、トワイライトがいなくなればアオゾラジョウはタチマちホウラクする。ソラから、こんなオオきなモノがフってみろ。それこそ、()()()()()になりかねない】


 ですよねぇ……と、曖昧な返事をしながらも、彼女も青空城からトワイライトを解放してやりたいと思っているのは、間違いなさそうだ。だとすれば……ここはやはり機会を伺って、箱庭を下界に()()させた方がいいだろう。


「しかし……このままでは、トワイライトは自分のあるべき姿も忘れて、ひっそりと朽ちていくしかなくなります。もし、彼も新しい場所で暮らす事を望むようなら……やっぱり、この青空城を捨てる事を提案してみてはどうでしょう?」

【……このアオゾラジョウをステる? だが、そんなコトをしたら……マチガイなく、チジョウにヒガイがデルぞ?】

「えぇ、分かっていますよ。ですから、きちんと落下先を見定めてやればいいのです。……まさか、こんなところで戦闘機を持ち込んだのが役に立つなんて、思いもしませんでしたけど。俺達が乗ってきたトーネードのブラックボックスを使えば、頃合いを見計らってトワイライトに合図を送ることも可能でしょう。合図の通信はどうしても、ロンバルディアの管制システム経由になりますけど……少なくとも、軍隊を掌握しているヴィクトワール様に頼めば、多少の融通は利くはずです。その機能を使って、青空城が海に抜けたところで合図をしてやればいいのでは?」

【……!】


 青空城の詳細な調査は海に胴体着陸させた暁に、改めてプロにお願いすれば効率もいい。それに空から飛来した古代遺跡なんていう()()()()()()が出現するとなれば……どこに落としたとて、観光産業に多大な恩恵をもたらす。きっと着陸先の滑走路(交渉先)は選び放題、青空城は引く手数多で受け入れ先を見つけるのも、容易いだろう。


「まぁ、とりあえずはトワイライトにも相談しなければいけませんし、受け入れ先は慎重に見定めなければいけませんけど。それはさて置き、今は青空城の原動力(トワイライトの心臓)の状況を確認する方が先です。これだけは、()()()()に踏み切るわけにもいきませんから、俺達の方で把握しておかなければ……って、キャロルにジェームズ。さっきから、ゴソゴソと何をしているのです……」


 ラウールがイノセントと今後の事を話し込んでいる背後で、キャロルとジェームズが 熱心に地面を見つめている。その様子を訝しく思いながらも、彼女が頻りに気にしている物の正体を尋ねれば。彼女の方もさして隠すこともなく、拾い上げたそれをラウールにもしっかりと見せる。


「あっ、ごめんなさい……。こんなにも綺麗な石が落ちているものですから……つい、見惚れてしまっていて」

「綺麗な……石?」

【フム……このイシ、トワイライトとオナじニオいがする。コレはカレのウロコ……カ?】

「あ、そうなんだ。でも……トワイライトさんの鱗って、こんなに真っ青でしたっけ?」


 彼女の掌に転がるのは、どこか悲しい碧色をした六角形の美しい破片。そして……その輝きは黄昏色とは程遠い、深い深い夜空色をしていた。

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