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アメトリンの理想郷(5)

 イノセントに伴われ、遺跡の合間に伸びる崩れ道をしばらく行けば。急に開けた視界の先には、一面の花畑が広がっていた。彼の作った1つの理想郷……先ほど、イノセントはそんな事を諦め口調で語ったが。確かに、この鮮やかな光景は言わば、神の庭に相応しい光景だ。しかし……。


「……ここまで、住人らしき相手は1人も見かけませんでしたね。イノセント、この青空城にはどの程度の人数が暮らしていたのですか?」

【……セイカクなカズはワタシもシらないが、ゼンカイのジテンでも……ジュウスウニンだったヨウにキオクしている】


 何やら、目の前の花畑に思うところがあるのか……イノセントが悲しそうにポツリポツリと黄昏の彗星(トワイライト)と呼ばれる神の使者について話し始める。

 彼女の話ではアメトリンの来訪者(オリジン)でもある彼は、相手の悲しみを感じとる術を持っていたそうだ。その鱗は淡い紫色とも、仄かな金色とも取れない黄昏色をしており……まるで周囲を癒すかのように、ラベンダーにも似た清々しい芳香を放っていたという。トワイライトはそんな特殊な力を持つが故に、生まれながらにして苦悩を持ち合わせるカケラ達はもとより、彼らの慈悲の恩を仇で返した人間さえをも救おうとしていたらしい。


【だが……トワイライト、おヒトヨシすぎる。ニンゲンをヒきコメば、カナラずイサカいがオこるのは、メにミえてイタ。このバショがゲカイにあったコロ、ヨクにメのクランだ()()()()()()がいたせいで……トワイライトをトラエようと、ニンゲンのキシがノりコンデきたのダ】


 人喰い竜が暴れている。そんな事実無根の噂を元に、勘違いで乗り込んできた騎士相手でさえも、トワイライトは説得を試みたが……結末は決して、穏便なものではなかった。平行線で終わった対話と反乱の末に、自身の理想郷と住人を守るため、彼はその身を自分の手で削り、この場所を作り上げたのだ。だが、そうしていよいよ世界から隔絶された理想郷は至極安全ではあったが……同時に、底無しに退屈でもあった。


【ヘンカのないエイエンは、クツウでしかナイ。そんなクツウからニげダそうと、このチをハナれていくモノもオオかった。そして、トワイライトはそんなカノジョたちさえもココロヨク、ゲカイへミオクっては……ワタシにはサビしいとコボシていたナ】


 だからこうして青空城が自分の近くを通る時は、遊びに来ているのだ……と、イノセントは気丈に口元を緩めるものの。目の前の美しいだけの空虚な花畑は、寂しさの証明にも思えて……殊更、儚げに眩しく映る。


【まぁ、そんなコトはどうでもいいか。トワイライトはとにかく、サビしがりヤだ。ハヤくイッテやらねば。それに……キョウはワタシひとりではない。キャロルたちもイッショにおシャベりデキれば、きっとヨロコぶにチガいナイ】

「……そうですね。それはそうと……イノセントさん、トワイライトさんはどこにいるのでしょうか?」

【いつもドオリであれば、シロのナカだろう。……トワイライトはヨウツウモちでな。あまり、ヒトリでデアルかない】

「……来訪者のあなた達も、腰痛になるんですね。意外です」

【ワレラとて、イマは()()()()()()()だ。ビョウキにもなるし、イタミもある。それはオマエだって、オナジだろう?】


 確かに、とジェームズを抱えたままの姿勢で精一杯、肩を竦めて見せながら……少しばかり、自分の軽はずみ(失言)を反省するラウール。

 イノセントが主張するように、自分達は全員ひっくるめて丸ごと、ただの生き物でしかない。そう、少なくとも()()()()()()()()ではないというだけで、意識も命もある、何の変哲もない存在でしかないのだ。だから、それを否定したら少し怒られてしまうのも……至極、当然の事なのだろう。

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