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スペクトル急行の旅(1)

「……朝から、何しに来たんですか? 冷やかしでしたら、お断りですよ」

「いや〜、久しぶりに可愛い孫の顔を見たくなっての。のうのう、今日こそは爺様の話し相手になってくれんかのぅ?」

「あぁ、残念でした。()()()()()兄さんは、とっくに仕事に出かけてますよ。確か明後日は非番だって言っていましたから、その日に出直す事をオススメします」


 今日も今日とて、閑古鳥が鳴いているアンティークショップ。そんな暇の極みとも言える、店の掃除をしていたラウールの神経を掻き乱すように、ひょっこりと現れたのは……白髭の老人。さも迷惑とラウールに冷たくあしらわれても尚、彼の無愛想も慣れたものと陽気な笑顔を見せる。


「もぅ〜、何をとぼけちゃっているのかね。余には可愛い孫が38人もおるのじゃが……中でも、ラウちゃんは魅力ナンバー1じゃ〜! ほれ、恥ずかしがらずに、お爺ちゃんと呼んでくれんかの〜? ほれほれ!」

「……いい加減、耳障りです、ホワイトムッシュ。第一、俺達はあなたの孫ではないはずですよ。ご縁に従い、それなりに仕事はして差し上げますから……それ以外は放っておいてくれませんかね」

「そのパンクな刺々しさもたまらんのぅ! なんじゃ、反抗期か? 反抗期なのか⁇」


 いよいよ我慢できぬと、鋭い瞳でムッシュを睨みつけるラウール。確かに目の前でチェスターフィールドコートを折り目正しく着込んだ老人は、家系図上は祖父に当たるのかもしれない。しかし、実際の血縁がない彼を祖父と呼んで慕うような素直さを、ラウールはまだ持ち合わせてはいなかった。


「あぁ……もう。本当にラウールは相変わらず、スレておるの。折角、ちょっとした旅行に誘ってみようと、出てきたのに……」

「それこそ、あなたの旅行に同行したい相手はいくらでもいるのでは? 何を好き好んで、俺みたいなのを連れ回したがるんだか……」

「もっちろん、可愛いからに決まっておるじゃろ! それに、お前だったら余の護衛にも最適じゃし。のうのう。ここにこうして、招待券があっての……スペクトル急行の乗客第一号に選ばれちゃった余のためにも、同行してくれんかの?」

「なるほど、目的はそっちですか。……身辺に不審な事でもあったのですか?」

「別にこれと言って、大きな事はないんじゃが。まぁ、久しぶりのお出かけなわけじゃし、ちょっと用心しておこうと考えての。一応、引退しているとは言え、余は影響力も絶大なもんじゃから。ボディガードも含めて、お供を頼めないかの〜……」

「でしたら……依頼料は金貨10枚でどうですか?」

「あうっ! ラウールはしっかり者の上に、超ドライなんじゃから! まぁ、もちろんタダでとは言わんよ。今回は()()()()への依頼ではないが……可愛い孫と一緒に旅ができるんだったら、その位は喜んで用意しちゃう」

「……交渉成立ですね。それでは、いつからお供すれば良いのですか? 3日後? 1週間後?」

「ふむ? 何を、寝ぼけたことを言っておるのかね。もちろん、今からじゃ〜‼︎」

「はい……?」


 本人の了承と困惑を無視して、強制連行つかまつるとばかりに背後の従者に合図を送るムッシュと、その従者に抵抗する気力も準備も持てないまま、あっという間に連行されるラウール。

 結局……強引な一連の()()はモーリスへの置き手紙を残す余裕さえ、とうとうラウールに与えることもしなかった。

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