アダマントが戦車でやってくる(6)
【ラウール、ネボウ。タブン、キノウナヤんでいたせい。あのヨウスだと……キョウも、ミセはヤスみになりそうだな】
「そう……ラウールさん、悩んでいたのね……。やっぱり、ちょっと可哀想だったかしら……」
普段であれば仕方なしに起きてきては、キャロルよりも先に開店準備をしているはずのラウールだったが。今朝はきちんと起きられなかったのか、キャロルが起こしに行っても、一向に目覚める気配がなかった。そんな彼を置いて、こうしてジェームズと朝の散歩に出かけてみたものの。ジェームズからお寝坊の理由を聞いて、少しは慰めてあげた方が良かったのだろうかと考える。
【ラウール、ブキヨウだし、キもキかない。だけど、キャロルにダケは、キラわれたくナイ。だから、ソコにはイッショウケンメイになるし、ナヤむ】
「ふふ、そうなのかな。それにしても……ラウールさん、意外と心配性なのね……。別にそんなに心配しなくても、もうどこにも行かないのに」
【キャロル、どこにもイかない。ラウール、きっとアンシン。ついでに、ジェームズもアンシン】
そんな事を呟きながら、目敏く……ではなく、鼻敏く好物の匂いを嗅ぎつけたらしいジェームズが、今度は期待いっぱいの眼差しでキャロルを見上げている。彼の話によると、この先には彼お気に入りのスタンドがあるそうな。普段、朝の散歩はラウールがしている手前、彼らの散歩コースは今ひとつ把握していなかったが。……1人と1匹で毎朝コーヒーとゴーフルを楽しんでいるというのだから、キャロルとしては少し恨めしい。
「でしたら、ゴーフルをお土産に買って帰りましょうね。お家に帰って、みんなで頂きましょう」
【ジェームズ、ガマンできない……。ラウールだったら、そのバでクレる】
「もぅ、そういう言い方しないの。お家でゆっくり食べた方が美味しいと思いますよ? ちゃんと、ジェームズの分にもチーズとソーセージを乗せてあげますから」
愛犬を渋々ながらも納得させて、きちんとお喋りをやめさせると……しっかりとゴーフルを6枚お願いするキャロル。確かに焼き立てを食べながら帰るのも、楽しいのだろうけど。やっぱり、除け者はよくないよね。そんな事を考えながら、ゴーフルの袋を抱えて帰り道を歩くキャロルとジェームズ。もうそろそろ、流石にラウールも起きているだろうか。だとすれば、ちょっとしたお詫びにコーヒーを淹れてあげるのも、いいかもしれない。
***
「ただい……」
「キャ、キャロル! 今まで、どこに行って……!」
「えっ? どこに、って。……ラウールさん、そんなに慌ててどうしたのですか?」
ただいまを言い切る間もなく、突如、入り口で肩を掴まれ質問攻めにされるキャロル。見れば、ラウールは寝癖を整える事も、シャツをきちんと着る事も忘れる程に、慌てているらしい。いつになく、ヨレヨレでだらしない彼の様子に、何か緊急事態でもあったのかと身構えるが……。
「どうしたって、何も言わずに出て行ったら、心配するだろう⁉︎ あぁ、怪我はない? それで……あっ、その袋はなんですか⁉︎ もしかして、また誰かに誘われて……!」
【……オチつけ、ラウール。ジェームズたち、アサのサンポにイッテただけだ。それに……】
「……書き置き、見つけられなかったんですか? ちゃんとテーブルにお手紙、置いておきましたよ?」
「はい?」
寝坊してしまったと、ベッドから這い上がってみたものの。家中を探してもキャロルの姿がなかったことに、それはそれは焦りに焦ったラウールは……テーブルの書き置きさえも見落とす、ヘマをやらかしていたらしい。そんな格好悪い姿を見られて、冷ややかな彼女達の視線にも気づくと……恥ずかしそうに俯きつつ、先ほどまでの大騒ぎが嘘のようにスゴスゴと2階に帰っていく。そんな彼らしからぬ姿を見送ってみれば、残されたキャロルとジェームズは何故か笑いが止まらない。クスクスと互いに笑いながらどちらからともなく、朝食にしましょうと一緒に2階へ上がる。
兎にも角にも……明日は朝からお出かけなのだから、せめて今日くらいはお店を開けないと。今日もお客様はゼロかもしれないけど。それでも……店主の傷心を慰めるためにも、気晴らしは必要だろう。




