アダマントが戦車でやってくる(1)
ここで閑話(結婚話)を入れます。
状況整理とキャラクター移動の経緯を説明するためのパートのため、ストーリーに大きな進展はありません。
有り体に言えば「リア充爆破しろ」な気分で、悔しがるラウールさんに同情してやってくださればと思います。
結婚式の日取りが決まってからというもの……アンティークショップでは、兄夫妻の引っ越しの準備が急ピッチで進められていた。おかげで、2階は玩具箱をひっくり返したように雑多な荷物で散らかっており、衣装持ちらしいソーニャの荷物が多いものだから、必要以上にカラフルな散らかり具合が殊の外、目に余る。
いつの間に買い込んだのか分からないが、ワンピースだけでも何十枚もあり……それだけではなく、靴なんかもいろんな所から、際限なく出てくる始末。彼女の隠れた散財ぶりに、流石のモーリスも改めて眉を顰めていた。
「……ソーニャ。もちろん君も稼いでいるのだから、多少のお買い物はいいよ? だけど……こんなに必要なのかな」
「ご、ごめんなさい……つい、お店に行くと欲しくなってしまって……。今までお洒落するなんて事も、ありませんでしたから……」
そうして反省の色を見せつつ、ソーニャがオヨヨと泣き崩れるフリをしてみれば。彼女の名演技に、慌ててモーリスがソーニャを優しく宥める。
(全く……兄さんは本当に甘いのですから。これじゃぁ……先が思いやられますねぇ……)
まぁ、モーリスは普段から輪をかけて清貧そのものだのだし……多少は花嫁の方が散財でもしなければ、経済も回らないだろうか。そんな事を考えながらも店主でもあるラウールとしては、最大の懸念事項をソーニャにぶつけてみる。引っ越しは大いに構わないが……いくらなんでも、営業妨害はご遠慮願いたい。
「……ところで、ソーニャ」
「はい? いかがいたしましたか、ラウール様」
「……店先のあれはいつになったら退くのですか? あんなものがあったら、お客様が寄り付かないではありませんか」
「まぁ! 普段から客足ほぼほぼ0のクセに、何を言っているのです。折角、引越しのお手伝いをくださるというのですから、ご厚意に甘えるのも節約のうちですわ」
確かに引っ越しも業者に頼めば、それなりの金額になる。いくら荷物が少ないとは言え、車も馬車も個人保有していない彼らにとって、移動だけでも苦労することは否めない。だが……その移動に車は車でも、厳つい戦車を使うことはないだろうに。
「そもそも……戦車って公道走れましたっけ? というか、なんで戦車なのです? ここは蒸気自動車で良かったのでは?」
「もぅ! ヴィクトワール様のご配慮にケチを付けないでください! あのタンクは小型ですから、辛うじて公道は走れますわ。それに……」
「それに?」
「戦車でお引越しなんて、なかなか体験できない事です!」
どこかズレている。間違いなく、ズレている。それなのに、花嫁の奇策に同意を示しては……どこか嬉しそうな表情の兄に、戦慄を禁じ得ない。モーリスも戦車での引っ越し肯定派……なのだろうか?
(まさか、この調子で兄さんも突っ走るつもりですか……?)
兎にも角にも、このまま同じ空間にいたら新婚夫婦の毒気に当てられて、余計な気苦労を抱え込みそうだ。そうしてお熱い様子を見せつけられて、ため息をついては……色々と諦めるラウール。この調子では2人の間に割って入ることもできないし、営業妨害の抗議も受け入れてもらえないだろう。だとすれば……ここはやっぱり、キャロルに同意してもらうに限る。
別に寂しくないし、羨ましくもないし。相手がソーニャとか……この先、苦労の連続に違いないだろうし。そんな事を内心では強気に考えてみるものの。本当は、兄の結婚が羨ましくて仕方のないラウールだった。




