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カーバンクルとドルシネア(30)

 最後のヒントは「血痕」。そして、それが意図するところは赤い何か。ともなれば……この会場にはそれらしい物が並ぶ場所は一か所しかない。


「まさか迎賓もないのに、ワインセラー部屋に足を踏み入れることになるとは、思いもしなかったな……」

「でも……お祖父ちゃん。どうして、ワインなんですか?」

「そうか、シャーロットはワインがどんなお酒か知らないんだね」

「うん……知らない」


 ロンバルディアではワインが主流だが、スコルティアでは専らウィスキーが好まれる。しかし、最近は様々な酒が楽しめるようになった上に、先代の交友関係の影響で……このディテクションクラブにもご立派なワインセラーが作られてから、かれこれ20年以上。ここまで来ると……本当に先代は怪盗紳士に惚れ込んでいたのだから、と思わずにはいられないが。そして……怪盗紳士が大好きだったらしいワインには、やや非科学的な迷信が存在するのも、有名な逸話でもあった。


「ワインは聖者の血に例えられることが多くてね。それに、かのグリードは大のワイン好きだったらしい。よく、先代……ヘンリーのお父さんとワインを酌み交わしながら、知恵比べをしていたのだそうだよ」

「そ、そうだったのですか⁉︎ と言うか、ヘンリーさんのお父さんって、本当にすごい人なんですね!」

「そうだね。父さんは本当に凄い人だったと、僕も思うよ。推理小説家としても凄かったけど……ふふ、何だかんだで最後までうるさい頑固オヤジでいられたんだもの。僕だったら……あんな風に病気になったら、負けてしまうよ」


 晩年のアントニー・ベルカンは普段の()()()()()が祟って、糖尿病と痛風を患っていた。故に、仕方なしにベッドから起き上がれない毎日を過ごしていたが……彼はあろう事か、入院を選ばずに自宅療養を強行したのだから、いよいよタチが悪い。そんな父のワガママにはお人好し過ぎるヘンリーも頭を悩ませていたが、父親から引き継いだ新聞社の経営は相棒のルセデスに任せて、自身は父親の介護に精を出していた。


「それが、あんなに呆気なく亡くなるなんてなぁ。あまりに唐突だったもんだから、最初は私も何かの冗談じゃないかって、信じられなかったよ」

「そうだねぇ。なんたって……父さんは最後まで、自分の足でトイレに行く事に拘ってたから。だから2階にもトイレを作ろう、って言ったのに……」

「……ヘンリーさんのお父さん、もしかして……」

「あはは。元々、具合は良くなかったんだけどね。多分……トイレに行こうとして、階段で足を滑らせたんだろうなぁ」


 そんな閑話混じりでワインセラーのある部屋……迎賓室No.3に仲良く辿り着けば。そこにはカウンターに腰掛けて、満面の笑みを貼り付けた漆黒の怪盗紳士と何故か、そのカウンター下で拘束されているらしいホッジスの姿が目に入る。


「ホッジス⁉︎ ど、どうしてこんな所に! と言うか、これ……どういう状況ですか?」

「クククク、皆様、お待ちしておりましたよ。そして……まずはゲームクリアおめでとうございます、とでも申し上げておきましょうか」

「グリード! 今日こそはこの名探偵が、あなたを逮捕する日なのです! さぁ! 大人しく……」

「おやおや……謎解き1つ、自分で解かなかったあなたが何をおっしゃる。結局、ほとんどメーニャン氏とベントリー氏とで解いてしまったではないですか。まぁ……急遽ゲストを増やしたので、問題の難易度も上げてみましたけどねぇ。いずれにしても、あなたは探偵を名乗るにはかなり力不足だと言わざるを得ません。サッサと学校に行って、教養と常識のお勉強をし直すことをオススメしますよ」

「う、ウグググ……! ちょっと、盗み聞きなんて卑怯じゃない!」


 泥棒は盗むのがお仕事ですから。そんな風に戯けて見せては、ようやくホッジスを解放するつもりになったらしい。彼が指を1つ、パチンと鳴らせば……まるで魔法のようにその縛めがハラリと落ちた。そんな風に突然訪れた自由に呆気に取られる間もなく、ホッジスが()()()の元に駆け出す。だが、その逃げ腰の割には……あからさまに敵意を剥き出しにしたその瞳に、彼はまだ悪あがきを続けるつもりらしいと、グリードの方も意地悪く睨み返してみる。そんな大泥棒の瞳は相も変わらず怪しく輝いては、紫色の強い光を帯びていた。

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