表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/823

カーバンクルとドルシネア(29)

「う〜ん……メーニャン氏を招いたのは、失敗でしたか? こうもアッサリと謎かけをクリアされてしまうと、味気ないではありませんか」


 ゴールで一行を待ち構えながら、盗聴器越しにご一行の様子を窺っては……鼻を鳴らすグリード。馬とロバの読み換えでシャーロットが躓く場合は、追加のヒントも用意していたのに……と思いながらも、再会を今か今かと待ちわびる。と、言うのも……被疑者を先んじて捕まえてしまったとあっては、待ちぼうけも甚だしい。本当はご一緒に参加されるついでに、()()()()()いただこうと思っていたのに。


「ククク……どうしました? そんなに睨みつけられたら……流石の俺も照れてしまいますよ」

「……これは何の冗談だ、グリード! この私にこんな事をして、タダで済むと思っているのか⁉︎」

「おや? その熱視線は、この泥棒めに見惚れているからではない? ……ま、この見た目では仕方ありませんか。今日は()()()()の真剣勝負ですからねぇ。それなのに、俺の邪魔するような真似をするからいけなんですよ。出しゃばりなドンキー(頓馬なロバ)に縄を打つのは、当たり前でしょ?」


 大泥棒のお誘いに過剰反応したのは何も、シャーロットだけではない。今まさにグリードの目の前で……後ろ手でお縄にされているホッジス・グラメルも、初恋の香り(招待状)で炙り出された1人。そして彼は持ち前の先見の明(心配性)で、正確かつ明晰に、自身の非常事態を嗅ぎ取ったのだろう。証拠隠滅とばかりに、あろう事かグリードよりも先に()()に手をつけようとしたのだから……それに対するお仕置きは、当然と言うものだ。


「……おぉっと、次のお題も見事にクリアしましたか。う〜ん……鶏からガチョウの変換は難しいと思ったんですけどねぇ。この辺りは、ブルー・カーバンクル由来のネタですから……当然と言えば、当然ですか?」

「さっきから、ブツブツと不愉快な……。おい! それよりも私の縄をサッサと解かんか!」

「えぇ〜? イヤですよ〜。()()()()()をみすみす逃すなんて、大先輩(怪盗紳士)の名が泣きます。それに……クククク! ご心配なさらなくても、大丈夫ですよ。彼らもきっと……後2つばかりの謎を解いたら、あなたの悪事に気付かれるでしょうから」

「私の……悪事? ハッ、何を根拠にそんな事を! 私が何をしたと言うのだね⁉︎」


 強がるのも今のうち。ヘンリーの頭に確固たる証拠が乗っているのを、彼は未だに知らないのだろう。そのあまりの間抜け具合に、さもお笑い種だとグリードは肩を竦めて見せる。兎にも角にも……この調子であれば、自分の()()()はなさそうか。だとすれば……ここはロバとお喋りを楽しみながら、首を長くしてみるに限る。


***

 えぇと次は……餌袋?

 グリードのヒントを追って、気がつけば……シャーロット達はまた空っぽのショーケースの前に戻って来ていた。と、言うのも……次のヒントがブルー・カーバンクルの台座の下に仕込まれていたからである。フカフカの分厚いビロードをガチョウの寝床に見立てたつもりらしいが。その行ったり来たりの道案内は、人を喰ったやり口にも程がある。


“ガチョウの餌袋にお宝を忍ばせたのはいいけれど。餌袋が破れていて、泥棒は盗んだ帽子を使わざるを得ない。だけど頓馬な泥棒は、帽子ごとお宝を盗まれた。さぁ、困ったぞ。あの帽子にはまだ証拠が残ってる”


「あの帽子……って。まさか、また……ヘンリーの帽子か?」

「えぇっ? グリードは僕の帽子が、そんなに気になるのかなぁ」

「ヘンリーさん! その帽子……もう一回、見せてください!」

「うん……。でも、他に何があるのやら……」


 お宝のキーワードが示すのは間違いなく、ブルー・カーバンクルそのもの。そして……片や、帽子はやっぱりヘンリーの帽子なのだろうか? そんな事を考えながら、シャーロットとルセデスがマジマジと帽子を見つめるが……それらしい紙切れはもう、残っていない。しかし……。


「……ヘンリー、ちょっといい?」

「うん?」

「この帽子のココ。……元々、シミなんてあった?」

「いいや? シミなんてなかったと思うけど……って、本当だ。これ……いつのシミだろう?」


 雨の日には被ったこと、ないんだけどなぁ。なんて、ゆったりとした口調でヘンリーが首を捻っている横で……そのシミが何なのかにも咄嗟に気づく、ベントリーとルセデス。まさか、この茶褐色は……。


「……これ、もしかして血痕?」

「かも……しれんな。それはそうと、ヘンリー。この帽子を失くしたのは、いつだった? どこで失くしたか、分かるか?」

「えぇと……そう言えば、僕はこの帽子を被って外に出たの、今日が初めてなんですよね。ただ、父さんに見せた後からないから……帰り道で落としたんだろうけど。だから、失くしたと分かった時は結構、切なかったなぁ。何せ、この帽子で一度もお出かけできていなかったのだし」


 と、言うことは……帽子がなくなったのは、彼の実家である可能性が非常に高い。ヘンリーは帰り道かもと言ってはいるが、今日が初めてのお披露目と言うことであれば、その日はパナマ帽を被るような陽気ではなかったのだろう。パナマ帽は携帯するにも都合よくできているもので、使わない時は折りたたんで鞄に忍ばせるのが常である。そんな鞄に忍ばせていたはずのパナマ帽だけを、いくらヘンリーでも器用に外に落とすとは、考えにくい。


(あぁ、やはり……そういうことかの。彼はブルー・カーバンクルの盗難経路の種明かしついでに……事実を明るみに出すつもりらしい)


 確証はないけれども、心当たりはある。そんな()()()()に思いを馳せては、ヒントが示す次の場所へ自ら案内役を買って出るベントリー。おそらく、次がゴール。謎解きゲームの最終地点となるに違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ