カーバンクルとドルシネア(9)
(まずは盗難経路の確認から……でしょうか)
キャロルとジェームズに店番をお願いして、渦中のカーバンクルが売られていたという通りに足を伸ばすラウール。どうして、シャーロットが器用にこんな場所へ入り込んだのかも不明だが。それは彼女の言う運命の出会い……という宝石の存在共々、眉唾物の思し召しというヤツなのだろう。そんな事を皮肉まじりに考えながら、それらしい雰囲気の露店を探してみるものの。店の数もそれなりにあるため、どこで売られていたのかを特定するのさえ難しい。まず、こういう場合は……。
「すみません。少しお話、いいですか?」
「はい? ……冷やかしなら、ごめんだけど」
「冷やかしになるかどうかは、お兄さんのご対応次第ですね。有用な情報をご提供いただければ、それに見合った情報料は提示しますよ?」
「ほぉ?」
売上金からある程度の金額を持ち出してきたのには、人の口というものは非常に現金だという事をイヤという程知っているから。それでなくても、この通りの雰囲気……中央通りから外れている卑屈さが滲み出ている……からしても、金にモノを言わせる手法は効果的だと考えていいだろう。
そうして自分自身も十分に打算的だと自嘲気味に考えながら、目の前でやる気満々の店員から話を引き出そうと交渉してみる。
「この辺りで、丸いブルーの宝石を売っていた露店を知りませんか?」
「丸いブルー……ねぇ。はて」
「えぇ。その石が売られていた店を探していまして。些細なことでも結構ですよ。何か、思い当たることはありませんか?」
「ウゥン……と。ちょっと待ってくれよ……?」
この様子では何も知らないか……だとすれば、冷やかしになりそうか。そんな風に、望み薄な空気を醸し出しながら首を捻る店員の返事を待っていると、意外にも的を射た答えが返ってくる。
「あぁ、そうそう。この間ライダーさんの婆さんが家賃を払えないと嘆いていたけど……なんでも、たまたま家にあった石ころを買って行ったお客がいたとかで、助かったと話してたっけ」
「そのお店、どこか分かります?」
「そこの古着屋と骨董品屋の間が婆さんのショバだったけど、今は畳まれているよ。……息子さんがすごい剣幕でやってきて、喧嘩になってねぇ。あの後、大変だったんじゃないかな」
そんな事を言いながら、きっとぶら下がっている餌の効果もあるのだろう。最後に店員が、リンゴを磨く様にラウールに諂いながら、貴重な手がかりを与えてくれる。
「で、その婆さんだけど。この通りを更に行ったところのローサン街に住んでるよ。足が悪いらしくて、店が出ていない時は家にいるんじゃないかな」
これで、どうだ……と言わんばかりの店員に、結構なお加減で……と銅貨を2枚を手渡してやれば。僅かな金額でも、彼にしてみれば労力に見合う十分な対価だろう。ほんの少し口を割るだけで、コーヒースタンドで2杯位の報酬が頂けるとあれば、まずまず文句も出まい。
意外とすんなりと必要な情報を引き出せた事に、ラウールの方も満足しながら店を後にするが……さて。ローサン街は確か、少しばかり訳ありの人間が暮らしているエリアだったかと思う。そうなれば、今回も場合によってはならず者相手にトンズラする事になるかも知れないな……と、どんな時も自分は逃げ回る側なのだと、やっぱり自嘲せずにはいられないラウールだった。




