黒真珠の鍵(12)
1人、また1人。事もなげに、男達を原動力として飲み込んで……果たして、何人を喰らい尽くしたのだろう。目の前に広がる真っ赤な光景が完全に狂っている事を理解して、いよいよ震えだしたロンディーネ夫人を慰めるように、とりあえずは背後に隠すグリード。それでも自分はマスク越しの地獄絵図をしかと見届けようと、瞳をそらす事はしなかった。
「……クソッ! まだ、足りないのか?」
「あぁ、でも……ほら、扉が少し開いてきたぞ! ここまで開けば、そろそろ入れるんじゃないか?」
それなりに満足する人数を平らげたらしい扉が、モーズリーとエルメルが示すように、身をよじれば何とか入れそうなくらいには開いている。そして……その中途半端な状況が、グリードにはとても危ういものに思えた。
「そろそろ、いいですかね? 最初に提示していた通り、俺の役目はご案内だけです。この先は確認する必要もありませんから、帰らせていただきますよ」
「まさか、そのまま帰れるとでも思っているのか? これだけの秘密を知っているお前に、生きていられると困るんだよ!」
「あぁ、でしょうね。俺が逆の立場だったら、間違いなくそう思うでしょう」
「そういう事だ。まぁ、お前の方はきっとただ巻き込まれただけなんだろうが、運が悪かったと思って諦めるんだな。恨むんなら……そちらの役立たずのご夫人にする事だ!」
そう言いながら、腰のリボルバーを咄嗟に抜くと、そのまま発砲するモーズリー。そうして思う存分、装填されていた分の薬莢を回転させてみるものの……。
「な……? お前……何者なんだ……?」
「全く、これだから小悪党は。……殺せないと分かった途端に、化け物を見るような目で睨むの、やめてくれませんかね。まぁ、俺はちょいと特殊な作りをしているもので……その程度の武器では、死ぬことすらできないんですよ。そんなタネと仕掛けがなければ、こんなところにノコノコ出てきたりしません。何れにしても、急がないとあの扉……また閉じてしまいますよ。いいんですか?」
「クッ……! まぁいいか。お前1人逃しても、この先の技術があれば、些細なことだろう。……だが、必ずいずれ処分してやるから覚悟しておけ!」
「もちろん……覚悟はとっくにできていますよ。ただ……少なくとも、俺と貴方達がお会いすることは、2度とないと思いますけど。……あぁ、そうだ。最後にその鍵の黒真珠とご夫人は持ち帰らせていただきます。……報告をしないといけない相手もいますから」
そんな事を言いながら、さも当たり前のように鍵の頭から真珠を抜き取り、ロンディーネ夫人を促すグリード。既に言葉を発する事さえままならない彼女を抱き抱えると、松明もないまま来た道を疾走し始める。
そんな彼の背中があっという間に真っ暗な坑道に飲み込まれるのを、やや呆然と見送った後。ようやく待ち望んでいた光溢れる世界の存在を思い出したらしい、小悪党2人組。グリードが指摘したように、既に少しずつ閉じられようとしている入り口に身をねじ込むと……モーズリーとエルメルは、そのまま向こうの世界に消えていった。




